病気や外傷、手術等に伴う痛みを管理する方法を「ペインコントロール」と云います。
犬はヒトと比べて痛みに対する閾値が異なるため、一般的には痛みに強いと考えられています。
しかし、実際には細い針で注射を打っても痛がりますし、勿論、怪我をすれば同じように痛がります。痛みに対する反応はヒトと同じく個体差があり、それぞれで異なります。犬もヒトと同じく痛いものは痛いのです。しかしながら、我々のように痛みを言葉で発することができませんので、跛行(びっこ)や背湾姿勢(背中を丸める姿勢)、緊張、活力低下等のような様々な表現で示すしかないのです。
ちなみに、ペインコントロールは痛みを軽減する処置であり、それをしたからといって病気が治るわけではありません。しかしながら、疼痛管理をしっかり行うことで自然治癒力を高め、かつ痛みが緩和することで痛みの原因が治るまでの間、生活の質(Quality of Life=QoL)を向上させることができます。
ヒト医療でも、癌などのターミナルケアや様々な病気が原因で起こる慢性疼痛を軽減しQoLの向上を促すペインコントロールが非常に重要視されています。それ専門の科があるくらいです。
痛いのが当たり前ではなく、痛くないのが当たり前の時代に入っている状況です。勿論、薬や処置には様々な副作用がありますので乱用はできませんし、限界はあります。100%取り除くことは不可能です。
犬も一昔前までは、安全な消炎鎮痛剤が開発されていなかったという時代的な背景もありますが、疼痛管理はあまり積極的には行われていませんでした。その後、副作用の少ない消炎鎮痛剤の新薬がどんどん開発されてきて、薬の選択肢が広がりましたし、使用する機会も増えてきました。そして、痛みを軽減することで様々な利点が得られることも分かってきました。
全身麻酔下での手術を例にお話しすると、麻酔中は完全に無意識状態なのですが、手術による痛みの刺激は脳へ常に伝達されており、そこで情報が蓄積され疼痛の認識が増大します。つまり、麻酔中でも痛みはあるのです。そして麻酔から覚めて意識が回復すると、物凄く痛いという認識になります。
術後(でなくても)の疼痛は、情動的ストレスが強くなります。つまり、ストレスホルモンが分泌されることで術後の回復が妨げられ、結果として創傷治癒の遅延を引き起こす。また、痛みにより術後の運動が抑制されると、術創の感染率が上昇するということも分かってきています。
つまり、痛い状態でいると様々なデメリットが生じるということです。痛くない方が回復は早いです。勿論、個体差や病態により管理の仕方や反応は様々です。
疼痛管理のための薬剤はいろいろな種類がありますが、動物医療の中で最も一般的に使用される薬として「NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)」というものがあります。
各製薬会社から様々な薬が出ておりますので、薬についての紹介はまた後日に行いたいと思います。
痛みがあることで患部または創傷部を気にして舐めたり、引っかいたりすることもありますし、食欲や元気もなくなります。「病院=痛い」というイメージがついてしまうと、病院に対する恐怖感や嫌悪感になり、病院へくることが嫌になってしまいます。
当院では、痛みを伴う処置(抜歯や各種手術)を行う場合は、積極的に鎮痛剤を使用しております。費用は別途発生してしまいますが、痛々しい状態で家に連れ帰って不安な状態を過ごされるよりも、帰る段階でいつものように元気な状態でいれば術後の不安は解消されると思います。
また、去勢・不妊手術は若い段階での手術が一般的ですので、その時点で「病院=痛い=怖い」という感情が生まれないようにしてあげることが、非常に大切だと考えます。