5/12にYahoo Newsに取り上げられていたのでPickupにしてみました。

これは、平成29年10月に調査が行われ、平成30年7月に報告書が公表された国際獣疫事務局(OIE)の獣医組織能力(PVS)評価、ならびに平成29年2月に開催された第13回日本獣医学内科学アカデミー学術大会における国内疫学研究報告及びEpidemiol Infect, 145:1168-1182(2017)において、日本国内の狂犬病ワクチン接種の見直しについて意見が述べられた件に関する新聞記事(読売新聞2019.4.4)が元になっています。

詳細は記事を直接ご覧ください。このブログでは、記事の詳細に関する件にはあまり触れません。ちょっと一言?大分?書きたいことを書くだけにしておきます。

記事の中で「感染動物が侵入する確率、4万9000年に1度」という???な数値が出ていますが、これに関しては獣医師会の反論が会報で書いてあったので、どちらも読んで見ましたが、獣医師会の見解の方に分がある感じでした。豚コレラの件とか台湾での狂犬病発生の件とか踏まえると….

ただ、獣医師会の見解報告の中で、「わが国において、これまでWHOやOIEが推奨している野生動物を含む適切な狂犬病監視調査が実施されてこなかった状況を含め、台湾の事例にみられる野生動物における本病感染及び蔓延の可能性が考慮されていない….」とありまして…

ん?野生動物を含む適切な狂犬病監視調査(サーベイランス)が実施されてこなかった????調べてなかったの!?

ちゃんと調べたら台湾のように野生動物間で狂犬病が蔓延している可能性が日本にもありうるということです…。ちょっとこの内容を読んだときに、戦慄が走りました。この件に関して、実際どうなのかは時間をかけけて追跡調査したいと思います…

また、記事の中で「獣医師の主要収入源の1つ」とありますが、正直なところ、狂犬病予防注射は主要な収入源ではないです。

「狂犬病予防注射の料金は1回3千数百円だ。2017年度には全国で451万頭が予防注射を受け、飼い主の費用負担は全体で約150億円に上ったとみられる。」

とあるのですが、正しくは札幌では注射料2560円、注射済票発行料が700円、注射料は確かに獣医師の収入になりますが、済票は各自治体に収めますので、直接、獣医師の収入にはなりません。一時的に預かっている金額です。また、北海道では獣医師会への手数料等も支払ったりする必要があるので注射料から諸経費が引かれるので、注射料がすべて収入にはなりません。なんかその辺、誤解が生まれるような内容です。

はっきりいうと、これが主要な収入源となっている所ってかなり問題ありな病院です。当院では1%にも満たないですし…。で、ついでに狂犬病のワクチンの原価について、一般の方のブログになんか間違った値段が書いてありましたが、原価そんなに安くないです。書ている値段の4倍は超えます。シリンジやら注射針なども含めたらもうちょっとかな?具体的な金額を書くと(私は構いませんが)、あとで怒られたりするのでここでは書かないでおきます。

正直な話、当院のように問診、身体検査、副作用等の説明をして1本の注射に10数分かけていることを考えれば微妙な金額です…。我々は獣医医療の情報と技術を使って商い(動物病院=サービス業)しています。

原価云々を言ってしまうならば、服の原価1000円を10000円で売っているのは駄目ですか?ラーメン1杯の原価100円を1000円で売るのはボッタクリですか?

そんな感じの論点なんで、原価云々の話はいつも困ります。人件費や光熱費、家賃等、そういった諸経費を考えない人ってどうかしている…経済知らないのかな?

最後に「狂犬病流行の恐怖が過大に宣伝され、冷静な議論ができない現状が問題だ。」と綴られているのですが…この病気を知らない人が書いた記事なんだなぁと思いました。狂犬病関連については、こちらを参照してください。

見直しは正直必要だと思いますし、なにか別の方法を模索するのは良いことだと思いますが、ただ、この手の議論は数年毎に湧いては消えてを繰り返しています。

現状、発症したら治療方法はなく、致死率ほぼ100%というのはエボラ出血熱やエイズなんかよりも怖い感染症であることは間違いではないですし、毎年世界各地で5万近くの死者が出ている現状を考えると微妙な内容です。元となっている論文の記載もないし…現実離れした確率の数値だけ見せられてしまうと、何もしらない一般人はその数値だけを鵜呑みにしてしまいます。

今回の内容は、いわゆるマスコミの常套手段で「都合の良いところだけを切り貼りして記事にしたもの」なので、ちょっと注意が必要です。まぁ、文字制限があるからだと思いますが、一部の情報だけをPickupして記事にしているので、フェアな記事ではないなぁと思いました。

ただし、こういった内容も含めて様々な議論をして、獣医師にとっても、飼主にとっても、そして犬にとっても、良い方向に向かえれば幸いです。

本年、札幌市内において4月の狂犬病予防注射で2頭の命が失われています。副作用は防ぐことができません。確率的な問題なので、起きないときは起きないし、起きるときは多発します。少なくても狂犬病予防法という法律がありますので、犬を飼育する飼主に課せられた義務でもありますし、それを推奨しなくてはならない獣医師の立場もあります。議論をしたり、改良することで、こういう不幸な事故が少しでも減らすことができればと願っています。ちなみに、ワクチンメーカーの話では、ワクチンの製造方法はん十年変わっていないそうです…恐ろしいことです。