北海道ではその名を知らない人は、ほとんどいないと言われるあの寄生虫感染症についてです。
11/7に行われた動物取扱責任者講習会でエキノコックス症についての講義がありました。
ヒトへのエキノコックス症については様々な記載がありますが、伴侶動物であるイヌやネコついては記述が少なく、誤解されてしまっていることも多く、私は一部勘違いしていたところが修正されましたので、皆様にもお伝え致します。
エキノコックス症(多包条虫)とは、エキノコックスと呼ばれる寄生虫の卵が、ヒトの口から体内に入り、幼虫となって肝臓など(脳に転移することもある)に寄生し、肝機能障害などを起こす病気です。エキノコックスの幼虫の発育はヒトでは非好適宿主ではないため、非常に遅く、自覚症状があらわれるまで数年から十数年かかるといわれています。現在では、血液検査(血清診断)にて早期に発見でき、手術によって肝臓を摘出することで治すことができます。発見が遅くなり、進行がひどい場合は死に至ります。
ただし、万が一にも感染をしたとしても進行が遅いため、5年毎位での定期的な血液検査が推奨されています。
札幌市民は「エキノコックス症無料検診」を行っていますので、心配な方は是非、受けてみましょう。
詳しくは、札幌市の公式サイトから各区の保健福祉部健康・子ども課(保健センター)までお問い合わせください。
では、獣医療的な説明をこれから行います。
まず、エキノコックスは体長が2~4mmと非常に小さな虫です。頭節といわれる部分と片節と呼ばれる部分に分かれます。片節の部分に直径0.03mmの卵がたくさん入っている状態です。下の写真で左側の目みたいな構造があるのが「頭節」で右側の楕円形の尻尾のようなのが「老熟片節」です。
北海道立衛生研究所医動物グループより画像引用
エキノコックスの虫卵は直径0.03mmで薬品では失活しないと言われています。また、低温・高湿度の環境下では長期に渡って感染性を持ちます。つまり、冬の雪の中では長期に渡り感染力をもった虫卵が維持されることになります。逆に乾燥や加熱に対しては弱く、60℃以上では5分で失活し、100℃では瞬時に失活するようです。
厚労省エキノコックス症についてより画像引用
上の画像はエキノコックス症の感染経路のサイクルを示したものです。
ヒトへの感染経路は、虫卵を経口的に摂取した場合に限ります。虫卵を食べなければ感染はしません。注意が必要なのはキツネやイヌの糞便です。非常に稀ですが、ネコもエキノコックスに感染することがわかっており、その糞便にも注意が必要です。
成虫はキツネやイヌ、ネコ、タヌキに寄生します。
幼虫は野ネズミ(エゾヤチネズミ)やヒト・ブタに寄生します。下の写真がエゾヤチネズミです。キツネの主食です。
キツネやイヌが幼虫の寄生した野ネズミ(エゾヤチネズミ)を食べると、エキノコックスは成虫になります。その為、キツネ同士、イヌ同士、ネズミ同士では感染は成立しません。
イヌが野ネズミ(エゾヤチネズミ)を食べた時のみ感染します。キツネやイヌの糞便を食べたからといって感染はしません。卵は中間宿主(野ネズミ、ヒト、ブタ)でしか幼虫になれません。幼虫を食べたときのみ成虫になります。
万が一にも野ネズミを食べてしまった場合、1ヶ月しないと糞便中に虫卵は出てきませんので、その間に駆虫薬を飲ませれば糞便に虫卵が出ない状態で安全に駆除が可能です。ちなみに、犬の感染率は0.4~1.0%と終宿主動物の中では一番低く、一番高いのはキツネ20.7%、次いでネコ4.6%、タヌキ2.2%です。
ネコやタヌキへのエキノコックスの寄生ですが、好適宿主ではないため、成長がうまくできません。その為、体外へ虫卵の排泄はほとんど出ません。実験ベースでネコで糞便中に虫卵が出たらしく、可能性はかなり低いけど「ゼロ」ではないため、注意が必要のようです。つまり、外への出入りが自由なネコは定期的に駆虫薬を飲ませる必要性があります。
最後に予防対策についです。
ヒトについては、外での土いじりや動物に触れた後は、必ずしっかりとした「手洗い」を行い、虫卵が口に入らないようにキツネの糞を処理する(触れない、加熱、埋める etc.)といった感染経路をしっかりと遮断することです。
イヌやネコの場合、野ネズミ(エゾヤチネズミ)を食べなければ感染しません。つまり、放し飼いは野ネズミ(エゾヤチネズミ)を食べてしまう危険性が高くなるため、絶対にさせないことです。また、最近流行りの「伸縮リード」も危険なので注意が必要です。草むら等、飼主の視界が届かないところで野ネズミを食べてしまう可能性があります。伸縮リードは、交通事故や出会い頭の咬傷事故、異物の誤食やリードを落としてしまう等、様々な問題点がありますので、おすすめしません。
以上、動物取扱者講習会に参加して、初めて、一番役に立った講義の内容をまとめてみました。