前回、歯周病が進行した結果、抜歯せざるを得ない状態になってしまった犬歯の話をしました。

切歯(前歯)や犬歯といった単根歯(根っこが1本の歯の事)は、口を開けたらすぐに目につきますし、比較的歯磨きもしやすい歯です。その為、臼歯(奥歯)と比べると歯石がつき難いといえます。

しかしながら、歯周病を放置しておくと知らない間に少しずつ進行していき、気がつかないうちに歯槽骨を溶かし根尖膿瘍(歯の根っこで感染を起した病態)を起こすことがあります。こういう状態になってしまうと、歯を温存しての治療が難しい為、抜歯を行う必要があります。

20150204_perio_d00120150204_perio_d002

この写真は、長い間、歯周病を放置していたことにより歯肉後退が著しく進行してしまった犬の歯石除去後の前歯です。本来は抜歯対象ですが、こんな状態でも歯のぐらつきがあまりなく、飼主様も抜歯を望まれなかったので、隙間の空いてしまった歯肉部分を縫合し、温存することになりました。

20150204_perio_d003

これは歯周病により、歯根部の骨が溶けてしまい本来であれば白く写らなくてはならない所が黒く抜けてしまった(骨吸収)レントゲン写真です。歯科用レントゲン装置で撮影するとより鮮明に写るのですが、当院には専用レントゲン装置がないので、こんな解析度です。申し訳ありません。あくまで目安として撮影しております。

20150210_perio_d04

この写真は、上のレントゲン写真と同じ歯です(レントゲン写真の画像は現像処理の段階で左右反転させているので向きが実際の写真とは逆になっています)。

この写真は歯石を取った後のものですが、一見、特に問題ないように見えてしまいます。

でも、歯周病が進行しており歯槽骨が溶けてしまっているので、実際は歯がぐらぐらしております。

この歯は、このままにしておくと根尖膿瘍を起こしてしまう為、抜歯を行う必要性があります。

次は、歯周病が原因で根尖膿瘍を起こし、顔に孔(あな)が開いてしまった症例です。

20150210_perio_d05

左頬にぱっくりと孔が開いています。これは歯の根っこで感染が起こった為、その周囲に膿がどんどん溜まっていった(膿瘍形成)影響で皮膚が壊死してしまい、自壊してしまいました。

治療としては、抗生剤投与による感染症治療を行い、原因となっている歯の抜歯を行うのが一般的です。

20150211_perio_d05

左上顎第4前臼歯と呼ばれる上顎の歯の中で一番大きな歯の根っこ(根尖部)で感染が起こり、その結果として皮膚が自壊(破れた状態)してしまいました。
写真の矢印は、歯槽膿漏になっていた所で、歯石除去→抜歯を行い、感染部を洗浄した後に探子と呼ばれる道具を入れてみると、頬の孔に貫通してしまいました。

歯周病が進行してしまうと歯を支えている歯槽骨を溶かします。結果としてそこに隙間が生まれ、その隙間に細菌感染が起こり、進行すると根尖膿瘍(歯の根っこで細菌感染がおこって膿が溜まった状態)を起こします。

可能であれば、ここまでの状態に陥る前に、歯周ポケット内の歯石除去、および清掃を行うことで進行を押さえることが可能です。ただし、これらの処置を行うには全身麻酔下でないと施術できません。費用もかかりますし、麻酔のリスクもあります。麻酔に関するリスクは、術前の検査をしっかりと行うことでリスクを軽減できます。

以前は、当院でも軽度の歯石であれば鎮静下にて歯石除去を行っておりましたが、実際の所、鎮静下では十分な歯周ポケットのケアが難しく(痛みを伴うため)、ポリッシング(歯の表面の研磨作業)も歯の裏側までしっかり出来ない、また、抜歯の必要性が生じた場合に抜歯処置ができない(麻酔に切り替えれば施術可能)等の諸問題が多くみられました。

その為、現在(2015.2月時点)は全身麻酔下での処置に切り替えをさせていただきました。(特殊なケースを除き)

日本小動物歯科研究会という獣医歯科学の知識と技術の啓蒙および向上を目的とした学会が「無麻酔下での歯石除去」に関する危険性を提唱しております。興味のある方はこちらをご覧ください。

当院でも、歯石が少量のみしか付着しておらず、かつ、口を開けることに対して抵抗感がない犬に対しては、ハンドスケーラーという道具を使い、付き始めの少量の歯石をこそぎとる処置(ハンドスケーリング)は行っております。

ただし、ハンドスケーラーによる歯石除去は、意識下で口を無理矢理あけますので、犬はかなり嫌がります。

嫌がった場合は、今後のご家庭内での歯磨き行為が出来なくなるなどのデメリットも生じてしまいますので、ハンドスケーラーによるスケーリング(通称:ハンスケ)は行いません。

むやみに恐怖心を植え付けてしまうような行為はなるべく避けるべきと考えますので、費用や麻酔の問題はありますが、がっつりと付いてしまった歯石除去は、全身麻酔下での処置をお勧めいたします。

20150211_perio_d0720150211_perio_d08