気がつけば季節はすっかり夏になっていました。
夏の暑さと湿度には慣れているはずの私も、この数年ですっかり北海道の気候に身体が慣れてしまい、少し湿度が上がった程度で不快に感じてしまうようになってしまいました。もう本州には戻れません…。
「青い池」というのがあるようなので是非とも7月中に行ってみたいのですが、休診日でも入院や診察が必要な患者様がいるので、時間がとれずなかなか行けません。
さて、ここACフロンティアでは5月~6月にかけて内視鏡による異物摘出が立て続けにありました。
「どうしてこんなものを?」というものから、「これは仕方がないかもしれない」という物までさまざまでした。
胃内異物を摘出する際、内視鏡で摘出した方がよい場合と胃切開して摘出した方がよい場合の2つのパターンがあります。
催吐処置で吐かない物や吐かせると危険な物に関しては、内視鏡がある場合は内視鏡が第一選択になります。
ただし、内視鏡鉗子では取れないような異物や大量に摂取している場合などは開腹した方が早くなります。
私としては内視鏡で麻酔時間が少々長引いたとしても開腹による身体への損害や負担を考えた場合、可能な限りは内視鏡で取って上げようという考えでいます。ですので、想定外がなければ、内視鏡でと判断した場合は内視鏡でしっかりと摘出します。
ちなみに、内視鏡での異物摘出に要する時間ですが、数分から数十分程度です。
私の場合、最短は内視鏡挿入後2分、最長は1時間30分でした(想定外の物と数で手こずってしまったケース)。
基本的には、内視鏡操作で1時間以上かかると想定された場合、開腹した方がよいと云われてはおりますが、前述した通り、開腹すれば皮膚を切りますし、縫合もします。胃切開すれば胃に対するダメージもあります。なので、事前にレントゲン検査などを行った上で、内視鏡で行けそうな場合はなるべく開腹せずに行っております。
内視鏡の場合、麻酔覚醒後に帰宅できますし、食事も取れます。何よりも術後の回復が圧倒的に早いです。開腹した場合は入院が必要になりますし、傷をなめないように服を着せたり、アニマルネッカーを装着したり、後日に抜糸をしたり(皮内縫合の場合は抜糸なし)と術後もいろいろと大変になります。
とりあえず、開腹以外の手段として「内視鏡」という選択肢が増えたのは患者さんの負担も減るので導入してよかったと思います。
上の写真は胃内の異物を撮影したものですが、何でしょうか?
答えは「石」です。
小石であれば催吐処置で吐かせることができますが、ある程度の大きさになってしまうと胃の中に入ったのに出ないってことがしばしばあります。
梅干しの種なども同じ事が云えて、入るときは入るのに何度吐かせても出ない事があります。
こういうケースの場合は、開腹(胃切開)よりも内視鏡の方が圧倒的に確実で素早く摘出できます。この石は内視鏡挿入から5分弱で摘出でした。
これは爪楊枝です。
ご飯支度をしている最中に食べられてしまったとの事でした…合計10本です。
爪楊枝や串の場合、吐かせる事も可能ですが、吐かせる際に誤って胃や食道に刺さって突き破ってしまう恐れがあります。その為、串系は基本的にリスク回避を念頭に、安全で確実に摘出が可能な内視鏡を選択したします。
今回の場合、数が多かったので20分少々時間はかかってしまいましたが無事に全部摘出することができました。
これはなんでしょうか?
実は、ガーゼと布テープの塊です。
詳細は諸事情により書けませんが、ご家庭での応急処置が原因でなったとだけ….
レントゲンではこの数は確認できませんでした。問診でも1つ食べてしまったかもとの事だったので….
この数を最初の段階で分かっていれば、これは内視鏡ではなく開腹手術ということになってました。
とはいうものの、内視鏡で見たときはガーゼで異物は全て覆われており、それを取るまで詳しい状況は分からず、しかも、うまい具合に重なっていた為にぱっと見は1つにしか見えませんでした。
ちなみに、下の写真は左側がガーゼを取る前、右側の写真がガーゼ摘出後の胃の中の様子です。
取っても取っても次から次へと出てくるので、途中で開腹に切り替えようと何度も思いましたが、腎機能が悪い患者さんだったので、開腹によるダメージを考慮して頑張ってみました。たぶん、開腹しても剃毛、消毒、切開、縫合、覚醒を考えるとあまり大差なかったかもしれません。
簡単に取れそうに思えますが、布テープは表面がつるつるしているため鰐口型の鉗子では滑って引っ張れません。バスケット鉗子という道具の隙間にうまく細い所を挟めて締め上げて引っ張り挙げるというちょっと難易度の高い技術が必要でした。
これが導入から終了までに1時間30分弱もかかってしまった唯一の症例でした。体力のある患者さんだったら開腹してると思います。
無事にとれて幸いでした。術後の経過も宜しく元気にしているようで何よりです。