台風の影響で日本海側はフェーン現象による高気温が発生しております。
この時期にこの暑さは流石に吃驚しますが、そこは北海道、湿度が上がっていないため蒸し暑さは全く感じず、風が出てましたので寧ろ心地よく感じております。
4月からの忙しさも6月に入り、少し落ち着いてきましたので、お知らせ以外のブログを再開です。
今回は、犬の外傷性眼瞼裂傷についてです。
小型犬が大型犬に爪で引っかかれてしまい、左眼の下眼瞼が複数箇所にわたって鈍性に切れてしまったという症例です。今年の1月の出来事でした。
しっかりと精査すると瞬膜(第三眼瞼)も1cm近く裂けてしまっており、見た目はかなり痛々しい状況です。
事故というのは予期せずに起こってしまうもので、切れてしまったものは治すしかありません。ただ、今回はちょっと治すのが大変そう または 治らないかもしれないと思えるような傷でした。それでも眼球内や角膜への障害は認められなかったのが不幸中の幸いでした。
犬の爪による外傷は鈍性のため、外部に異常がなくても実は内部がかなり損傷していたりするので実は油断がならないのです。
一般的に眼瞼の裂傷は裂けてしまった皮膚と筋肉(眼輪筋)を糸で縫合して終了になります。
今回の場合、鋭利な傷ではなく、鈍性な傷で、まっすぐに切れていません。裂傷している箇所は全部で4カ所、しかもジグザグ状の傷になっており通常縫合が難しいため、損傷した周辺の組織を切除し、新しい新鮮な傷にして縫合する形をとりました。
瞬膜の裂傷は、辺縁部に関しては綺麗に癒合しない可能性が強く予想されましたので、つなぎ合わせる程度にしました。
一見綺麗に仕上がっているように思えますが、手術をしていて気がついた事があります。
実は、内眼角(目頭)側の外傷のすぐそばに涙点(鼻涙管)と呼ばれる涙の排水溝がありまして、それを整復するために組織を切除したり、間違って縫合してしまったりすると、涙の排水溝が閉じてしまって医原性の流涙症(ドライアイの治療に行われる涙点閉鎖術扱いになる)を起こしてしまう可能性がありました(※涙点には上涙点、下涙点の2つ孔があります)。
(鼻涙管の図説)
本来は、ダメージを受けた綺麗ではない組織は切除して縫合するのが理想的ではありますが、鼻涙管の問題があった為に避けるように細かい糸で縫合したため、ちょっとノッチ(VあるいはU字形の切り込みやくぼみの事)が出来てしまいました。手術用拡大鏡があればもっと精密な手術ができたのですが….
麻酔から覚めた後の写真です。
筋肉、皮膚が切れてしまっている影響で激しい炎症が起こっています。その為に眼瞼結膜が浮腫を起こして腫れ上がっています。また、瞬膜にもダメージがあった為に涙の過剰分泌が起きてしまい、流涙症ぎみになってます。
ちなみに、下涙点には術中、管を通して手術で間違って切開したり縫合したりしないようしてありますので、その影響で流涙を起こしているわけではございません。
整復手術は終わりましたが、この傷(筋断裂が酷いので)では最低でも2週間は腫れが引かない感じです。全治には1ヶ月近く要するのではと考えました。
つづく