ここ数日、札幌は連日降雪が続き、除雪作業な日々を送っております。

その為か喉をやられてしまい、昨日から少し体調が壊れ気味です。一応ワクチンは打っていますが、体力が弱っている為、万が一にもインフルエンザに罹ってしまったらどうしようかと戦々恐々です。

先日に引き続き、今回は肛門嚢のトラブルについての第2弾です。

前回は肛門嚢の位置関係と肛門嚢(腺)しぼり、肛門嚢(腺)炎について少し触れました。今回は、肛門嚢における腫瘍についてです。

時として、通常の肛門嚢(腺)しぼりにて分泌物を全部出したにも関わらず、嚢にまだ何か溜まっているような感じがすることがあります。外側から明らかに判断出来る場合もありますが、小さなしこりや嚢の腫脹はなかなかどうして判断することができません。その為、少しでも怪しいと感じた場合は、直接指を直腸に入れて内側から精査を行ないます。これを直腸内検査(以後、直検)と云います。

この直検では、直腸内における腫瘤の有無や直腸周辺筋肉の異常の有無(直腸憩室の確認)、肛門嚢の異常の有無、雄であれば前立腺肥大の有無などを判断することができます。

肛門の周りにできる腫瘍として、肛門周囲腺腫または腺癌、肛門嚢アポクリン腺癌があります。

肛門周囲腺腫に関しては、主に肛門の周囲または皮膚に結節状のしこりとして発症します。ですので、比較的発見され易いのですが、肛門嚢腺癌については皮膚の内側にあるため、余程の大きさにならなければ外見上の判断は難しいです。触診をして初めて気がつく事もしばしばです。

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この写真は手術前準備中に撮影したものですが、外見上は殆どわかりません。被毛がある状態ではさらに発見することが困難です。

肛門嚢腺癌は、以前は雌に多いとされていた腫瘍ですが、現在の所は性差はないようです。また、局所浸潤が激しく、非常に他臓器への遠隔転移を起こしやすい腫瘍の1つだと云われています。転移率は50~90%程とかなり高いタイプの腫瘍になります。

この腫瘍、場所が場所だけになかなか気がつかない事が多く、発見時には既に肛門嚢の近くにあるリンパ節(腰下リンパ節)への転移や腫瘍が出す内分泌様ホルモン(PTHrP)の影響による高Ca血症などの症状を起こしている事が高率であります。

腰下リンパ節に転移している場合は、リンパ節が腫大しますので大腸が圧迫されることで排便障害(しぶり、細い便)が起こり、高Caの影響で食欲不振や口渇、多飲多尿等の症状を起こします。また、進行すると昏睡や痙攣などの神経症状も呈します。

肛門嚢腺癌は周辺のリンパ節の他、肺や脾臓、脊椎などに遠隔転移を起こしやすく、転移の有無により中央生存期間に2倍近くの差が出ます。もちろん、転移兆候がない場合の方が生存期間は長いです。

基本は、腫瘍を外科的に摘出します。しかしながら、なかなかマージン(安全域、安全幅)を確保することが困難な場所の為、全てを摘出するのが困難な場合や局所再発防止の為に放射線治療が必要になることがあります。勿論、放射線治療に関しては専門施設内での施術が必要になるため、一般的な病院では行なうことはできません。その為、手術と同時に放射線治療が必要な場合は大学病院へ依頼することになります。

早期に発見されることで肛門嚢に腫瘍はあるが、血液検査やレントゲン検査、超音波検査において明らかな転移兆候が見られないこともあります。そして、外科手術においてもマージンが確保され、かつ、脈管への浸潤が認められない場合は同じ悪性腫瘍でもその中央生存期間は長くなります。しかしながら、高率で局所再発や遠隔転移が見られる腫瘍の為、完全に切除が出来ており、また転移兆候がない場合であっても細胞レベルに対する治療として化学療法(抗癌剤)を併用すべきと腫瘍の専門家は言っております。

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その為、当院では、転移兆候がない場合は早期に外科的摘出を行ない、病理検査による確定診断が出るのを待ってから化学療法を行なっております。勿論、抗癌剤に対するインフォームドコンセントを行なった上で、飼主様の同意が得られた場合に限ります。ただ、これらの積極的な治療を行なっても最終的には予後が不良になってしまうのが悪性腫瘍という怖い病気です。それでもQoL(Quality of Life)の向上の為に積極的な治療をしてあげたいものです。