今回は肛門嚢に関わるトラブルについてです。

肛門嚢(のう)とは、肛門から概ね4時と8時の方向に位置し、肛門括約筋に隣接した球状の嚢(ふくろ)の事をいいます。左右に1つずつあります。

この嚢には、みなさんもご存じの通り、くさい臭いがする液体が入っています。この液体の中には様々な成分が含まれており、糞便よりも酷い悪臭がします。この臭いが強烈な生物としてスカンクが有名です。

この嚢の内側には「アポクリン腺」と「皮脂腺」という分泌細胞が多数存在し、嚢内に液状~泥状の分泌物を貯蓄します。よく動物病院やペットサロンで見かけたり・言われたりする「肛門嚢(腺)絞り」とは、この分泌物を人の手で強制的に排泄させる処置の事を云います。

この肛門嚢の分泌液は、排便時や興奮時などに自然と排泄されることが多いので、もしかしたら絞ったことがない方もいるかと思います。よくお尻を床や地面にこすりつけて歩いている事がありますが、殆どの場合は肛門嚢内に分泌物が溜まっていることによる何らかのサインです。溜まりすぎて上手く出せないのかもしれませんし、もしかしたら炎症を起こしているかもしれません。

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通常は外側から触った場合、肛門の4時と8時の方向に嚢が位置している為、分泌液が溜まっている場合はぷっくりしたふくらみを触知することが可能です。肛門嚢(腺)しぼりは、皮膚側から肛門嚢を肛門粘膜の開口部に向かって絞り上げることで分泌物を排泄させますが、分泌物の粘度が強かったりすると上手く絞れないことがあります。その際は、直腸に指を挿れて外と内から肛門嚢をつかみ内容物を絞り出します。

そして、時として、この嚢内に貯留した分泌物が異常(変敗)を起こし、粘膜を刺激して炎症を発症することがあります(肛門嚢(腺)炎)。肛門嚢(腺)炎を起こしていると、内容物は膿性へと変化し、さらに炎症により嚢が全体的に肥厚します。そして、肛門嚢内容物が外にうまく出せない状態が続くと、行き場をなくした膿が嚢を破り、皮下に漏れ出し激しい炎症を起こします。そして、皮膚の一部が壊死することで自壊を起こし、皮膚に孔が開き、血様膿が出ます。

通常、初期症状の場合は気がつかない事が殆どで、ここ数日お尻を触られるのを嫌がるとか、お尻を気にして舐めているとか、床やシーツに血が着いていたという事で初めて異常に気がついて、病院に来院されます。

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左側の写真は、猫ちゃんで右側の肛門嚢が自壊したときの写真です。症状が軽微な場合、この程度の小さな孔であることもありますが、重度の場合はかなり広範囲に皮膚の欠損が起きます。その写真もあるのですが、ちょっとお見せできない位ひどいので割愛します。右の写真は治療して2週間後の写真です。孔はほぼ塞がり綺麗になっています。

肛門嚢(腺)自壊を1度でも起こしたことのある場合、比較的再発する傾向にあります。ですので、肛門をしきりに床に擦るとか気にして舐める事がよくあるという場合は、定期的な肛門嚢(腺)絞りをして内容物を外に出すのと同時に、肛門嚢に異常がないかどうかの確認をしてあげることをお勧めはしております。

この肛門嚢(腺)しぼりは、ちょっとしたコツが必要な為、自宅で出来る処置ではありますが、上手く出来ないと痛がるだけなので、どうしても絞れないという方はご相談ください。