今回は不妊および去勢手術を行うにあたってのメリット・デメリットについてです。
手術の目的については、以前のご説明でなんとなくお分かりいただけたかと思います。
では、手術をうけることで得られるメリットとデメリットにはどういうものがあるのかをご紹介します。
●不妊および去勢手術のメリット
1.望まれない交配による妊娠を回避することができる
2. 性ホルモン関連性問題行動の抑制
発情徴候(外陰部からの出血、鳴き声など)、マーキング、攻撃性、マウンティングなどが軽減します。
3.性ホルモン関連性疾患の予防
♂ : 前立腺肥大、精巣腫瘍、肛門周囲腺腫、会陰ヘルニアなど
♀ : 子宮蓄膿症、卵巣腫瘍、乳腺腫瘍など
雌の性ホルモン関連性疾患については前回の「目的」の処でもある程度お伝えしていますが、子宮疾患についてはあまり触れていなかったので軽く説明いたします。
子宮蓄膿症とは、子宮内に膿がたまる病気のことです。子宮は袋のような構造になっていますので、そこにどんどん膿がたまると風船のように腫れていきます。これは子宮内への細菌感染の結果、内膜炎を起こして膿がたまることで起きます。発見・治療が遅れると命を落とすこともしばしばあります。
次に、雄における性ホルモン関連性疾患についても軽く説明します。
前立腺肥大は、性ホルモンの不均衡によって前立腺の細胞数が増加し肥大化する疾患です。大きくなると排便障害(便が細くなったりする等)やしぶりが起きる場合があります。さらに嚢胞という液体溜まりができて血尿がみられたりすることもあります。薬で症状を抑えることができますが、恒久的なものではありません。
精巣腫瘍とはシニア以上の犬で多く見られるもので、精巣の細胞が腫瘍化したものです。一般的に良性が多いのですが、悪性の腫瘍も存在します。中高齢で精巣の大きさに左右差がある場合は、精巣が腫瘍化している可能性があります。
会陰ヘルニアとは外見上、肛門とモモの間の部分が大きく突出している状態のことで、その内容物は結腸にたまった便であったり、膀胱だったりと様々です。未去勢の高齢犬で多く見られ、肛門周りの筋肉が弱く薄くなり、または萎縮して無くなってしまうことで起こる病気です。排便時のしぶりにより悪化します。これは手術をしないと治りません。
肛門周囲腺腫とは、肛門の周りにイボができるもので基本的には良性ですが、悪性の場合もあるので注意が必要です。また、肛門の周りにできることが多いのでこの名前なのですが、実は尻尾や腰などの皮膚にもできることがあります。
以上のように性ホルモンが関与して起きる怖い病気がいくつもありますので、去勢・不妊手術することによるその予防効果は非常に高いと思われます。高齢にならないと症状がでないものも多いので、リスク回避の為にも若いうちに手術をしておくことをお勧めします。
●不妊および去勢手術のデメリット
1. 全身麻酔によるリスク(年齢や体質、状況に応じて反応は様々)
2. 性ホルモン関連性の尿失禁(とくに大型犬でみられることが多い)
3. 基礎代謝の低下に伴う体重の増加
4. 縫合糸による様々な問題(アレルギーなど、特にM.ダックスに多い)
デメリットについてですが、やはり麻酔をかけるというのが一番の問題でしょう。
以前よりも麻酔の安全性は格段に上がりましたが、100%を保証できるものではありません。そこでリスクを少しでも減らす方法として、事前にしっかりとした検査(身体検査、血液検査、胸部レントゲン、心電図など)を行う必要があります。若いから検査しなくても大丈夫というのは間違いです。また、高齢だからといって麻酔がかけられないという事もありません。時々、一生のうちで麻酔をかけられる回数が決まっているという話を耳にしますが、そんなことはありません。
尿失禁についてですが、性ホルモンが尿道の筋肉に影響を与えるようで、術後にホルモン不足が生じてそういう症状がでることがあります。これはホルモン剤の投与などで改善がみられます。
体重の増加…これは不妊・去勢手術をしたほとんどの犬・猫で多くみられる問題です。
手術をすることで臓器の一部を取ってしまうわけですから当然、基礎代謝が減ります。また性ホルモンも減りますので、発情行動に伴って消費していた代謝が無くなります。つまり何もしなくても太りやすい状況になっているわけです。そこに輪をかけて食欲が旺盛になる事が多いため、いつもより多くのカロリーを摂取してしまいます。
つまり基礎代謝は減っているのに、摂取するカロリー量が増えればおのずと体重は増えていく事になります。
これは食事管理でいくらでも回避できる問題なのですが、よく食べてくれる子に体重が増えるから少なく与えなくてはいけない等の飼主様への精神的負担というのがデメリットといわれる所以なのかもしれません。最近は、去勢・不妊手術した犬・猫専用の食事も開発され販売されております。
縫合糸に対する様々な問題として、近年になって論文や学会などで多数報告されるようになった縫合糸反応性肉芽腫というのがあります。これは手術の際に体内に残された糸(血管などを縛って出血したりしないようにする為に必要な道具)に対する免疫反応です。これはなかなか難しい問題で、原因の殆どは溶けないタイプの糸(特に絹糸)なのですが、溶ける糸や糸を使わないでたんぱく質を凝固させて止血する装置(血管シール装置)を使ってでも起きる可能性があるとのことです。どれも確率は低いのですが、特にミニチュアダックスフントで高頻度にみられるので注意が必要です。
他にも犬種ごとに様々な問題がありますが、一般的に言われるデメリットについてのお話でした。
Oops!最大で最強のデメリットのお話をしていませんでした。
それは・・・手術してしまったら途中で子供が欲しくなっても作ることができません!
長文になってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。
この情報が少しでも皆様のお役に立てることができたら幸いです。