札幌もやっと春らしい気候になり、雪溶けも一気に加速いたしました。
暖かくなると気持ちが良いのは我々だけではなく、様々な生き物も活動的になってきます。
今回は、外部寄生虫関連性の皮膚疾患についてです。
先日、とある猫ちゃんの皮膚病での診察の際に、発見されました。
それは、題名にもなっていますが「ノミ」です!!
関東から札幌に移住してから数年が経ちますが、最後にノミを見かけたのは・・・確か・・・4年ほど前でした。
思わず、「お久しぶり!」と叫んでしまいそうになりました。まさか札幌にきてノミを診ることになるとは思ってもいませんでした。
その猫ちゃんは、本州にしばらく居て、再び札幌に戻ってきたという経歴の持ち主でした。戻ってきた時期を逆算してもノミは越冬していることになります。
ノミは温度18~27℃、湿度75~85%の環境が好条件といわれており、その環境下では驚異的な繁殖力をみせます。北海道では、秋から冬にかけてはこの至適温度条件には合わないため、外界では殆ど見かけることがありません。
しかしながら、北海道の冬は断熱材や暖房の影響で、本州と比較しても室内はかなり暖かく、一定の条件を満たせば、ある意味、本州よりも至適環境下とも云えなくもありません。
ノミは犬や猫に寄生後、8分以内に吸血を開始すると云われています。そして、吸血開始後、数分後には排泄し、36~48時間以内に産卵を開始します。そして、平均30個/日の卵を産み落とします。
卵は、通常、産卵されてから数時間以内に動物の体表から床などへ落下します。至適環境下(温度27℃、相対湿度50%以上)では1~6日前後で孵化します。
孵化した幼虫は、1~2週間の間に2回ほど脱皮をします。主に成虫が出す糞を主食とし成長しますが、幼虫同士の共食いもあるようです。
幼虫は、その後、繭(まゆ)を作り蛹(さなぎ)化します(約1週間)。そして、好条件(温度24~32℃、相対湿度78~80%)が整ったとき、初めてう化します。条件が合わなければ蛹のまま1年近く生存することもあるようです。
そして、う化して成虫となったノミは、光や熱、二酸化炭素放出による刺激によって動物の体表に寄生します。
ノミは小さいながらも体長の約60倍の距離、約100倍の高さを飛ぶことができるという驚異的な運動能力を持っています。もし、ノミが我々と同じ位の大きさだったら、札幌テレビ塔を簡単に飛び越えてしまうくらいのジャンプ力を有している計算です。
ちなみに、札幌テレビ塔の高さは約147.2mです。
北海道では馴染みの薄いノミですが、実は様々な病気を引き起こすばかりか、ノミが媒介となってヒトにも病原体を移す可能性があるのです。
代表的な物として、瓜実条虫という寄生虫がいます。肛門に胡麻粒大の白い虫が付いている事がありますが、それは虫本体ではなく、片節とよばれる虫の身体の一部でその中にはぎっしりと条虫の卵が詰まっています。乾燥化するとそれが破裂して卵が一面に散らばります。その卵をノミの幼虫が食べることで成虫になった際に、ノミに卵がある状態となります。その卵を持ったノミを動物が吸血される際に痒くてかじって食べてしまったり、ヒトがノミをつぶした手で食べ物を食べて、そのまま卵を誤食した場合などに寄生されます。ヒトでは、濃厚感染で下痢や体重減少などが起きるようです。
あとは、猫ひっかき病やノミアレルギー性皮膚炎があります。
猫ひっかき病は、Bartonella henselae(バルトネラ菌)と呼ばれる菌による感染症で、犬や猫に常在していますが、動物間の媒介はノミによって行われます。ヒトに咬傷やひっかき傷から感染し、咬傷部の化膿や、リンパ節の腫脹や発熱などの症状が見られます。
ノミアレルギー性皮膚炎とは、ノミが吸血する際にノミ由来の唾液が体内に入ることで起こるアレルギー性皮膚炎のことです。強い痒みや継続的な引っかきや自咬行為が原因で、二次的に細菌性皮膚炎や全身的な丘疹性痂皮性皮膚炎になってしまいます。猫では粟粒性皮膚炎などが起きます。
ノミは上述した内容の生活環を有していますので、成虫をシャンプーで洗い流すだけでは治りません。環境中にいるノミがまたすぐに寄生します。
ですので、通常は滴下タイプのノミ駆除剤を使用して成虫駆除、卵からのう化防止を行います。
毎月1回しっかりと駆除していれば数か月後にはほぼ駆除できると思います(北海道の環境下では)。また、再発防止のためには、生活環境もしっかりと整える必要性があります。
つまり、幼虫の餌になるような塵や食べカス等のごみは、しっかりと掃除する必要があるということですね。