前回に引き続き、今回もインスリノーマの治療についてです。

今回はインスリノーマの外科的治療についてです。

外科的治療とは、全身麻酔下での開腹手術になります。膵臓を肉眼で確認、直接手で触ることで腫瘍化している部位を特定し、切除します。しかしながら、この腫瘍は結節(けっせつ)という塊になっていれば、それを切除することで減量体積(腫瘍細胞の数を減らす)効果が期待できます。しかしながら、100%の完全切除はできません。それは、インスリノーマはびまん性(1ヶ所ではなく全体に広がっている状態)であることが多く、膵臓全体に広がっている場合があるからです。

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左の写真の黄色い丸で囲った部分が膵臓です。クリーム色が脂肪で、その中にある少し赤い部分が膵臓です。右の写真は結節状になっていた膵臓を部分摘出したものです。大きいもので直径2mmくらいの大きさで、小さいものは1mmに満たない大きさでした。

手術は摘出してそれで終わりではなく、それを組織病理検査に出してはじめて確定診断を下すことができます。

外科的摘出によりインスリノーマが減量すれば、それだけインスリンの分泌量が減ることになりますので、低血糖のリスクがかなり改善されます。しかしながら、先ほども記述したとおり、殆どの場合はびまん性に病変が膵臓に存在しているため、取り残された部分からの再発、または他への遠隔転移が認められる場合もあります。その為、通常は外科的治療だけでなく最終的には内科的治療を併用することになります。

つまり、外科的治療とは、現存するインスリノーマの体積を減量することでインスリンの分泌を抑え、内科的治療による低血糖症状のコントロールをしやすくするための手段ということになります。残念ながら根治療法ではありません。個体によっては、外科的治療と食事療法を組み合わせただけで長い間、低血糖症状をコントロールすることができる場合もあります。

外科的治療には麻酔を含め様々なリスクがありますし、100%の治療効果が認められると保証されるものでもありません。一般的にインスリノーマに罹患しているフェレットは、概ね高齢である場合が多く、副腎疾患や心疾患などの他の病気も併発している場合があります。状態によっては麻酔をかけられない場合もありますし、個々によって臨床症状もまちまちです。その為、一般状態の確認と、レントゲン検査や血液検査、超音波検査などの全身的評価をした上で、飼主様としっかりとインフォームド・コンセントをする必要性がある治療方法となります。

しかしながら、一般状態がよく早期に発見することができたのならば、外科的な治療を積極的に考慮すべきだとは思います。とある報告では、内科的治療のみを行った場合のフェレットの平均生存期間は約219日外科的治療も併用した場合は約462日というデータもあります。低血糖症状のコントロールがうまくできれば健康なフェレットと同程度の生活が可能となります。つまり、Quality of Lifeの向上が望めるということです。

費用をかけた割には「2倍しか」なのか、「2倍も」なのかは人それぞれ考え方が異なりますので、外科的治療には飼主様のインスリノーマに対するご理解とご協力が不可欠なものとなります。先ほど述べた数値はあくまでも平均値です。ですので、それ以下の場合もあれば、それ以上の場合もあるということはご理解願います。

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左の写真はインスリノーマの手術と同時に左側副腎を摘出したフェレットさんの術前写真です。副腎はそれほど大きくなく病理検査も過形成でした。右の写真は手術後、2カ月目の写真です。全身の被毛が密に生えて以前同様に元気に走り回っているようです。

「なんということでしょう!」と思わず声が出てきそうなくらい、ビフォア・アフターが全く違います。

このよう目に見えて全身状態がよくなると飼主様同様、我々も手術をして本当に良かったと思える瞬間です。

インスリノーマは初期症状があいまいで、重症になってから気が付く場合が殆どです。日ごろからの様子を常にチェックしてあげて、少しでも様子がおかしいと思った場合は、病院への受診をお勧めいたします。