繁忙期が終わり、時間がやっと取れるようになってきたのでブログの更新です。

今回は、見た目で分かる甲状腺機能低下症についてです。

甲状腺機能低下症とは、甲状腺から分泌されるホルモンの欠乏によって起こる病気の事です。

様々な要因(薬や内分泌疾患、外科的摘出など)によっても起こりますが、自然発生的に高齢犬で診断されることが多いです。好発犬種も分かっています。猫では稀な病気です。

詳しい分類や発生機序などは割愛しますが、一般的な臨床症状として、痒みを伴わない脱毛(鼻すじや体幹部の左右対称性の薄毛、または脱毛)、ラットテイル(尻尾がネズミの尻尾のようにツルツルで毛がない状態)、色素沈着(地肌が黒く変色する)、角化異常(フケなど)、再発性の膿皮症(抗生剤をやめるとすぐに再発したり、治らなかったりする皮膚の感染症)、活動性低下(動きが鈍い、おとなしい、ぼーっとしている等)、悲劇的顔貌(悲壮感漂う悲しそうな表情=sad face)、肥満徐脈などがあります。

一番怖い症状としては、粘液水腫性昏睡というのがあります。

定義としては「甲状腺機能低下症(原発性、または中枢性)が基礎にあり、その代謝低下の影響が、直接、あるいは何らかの誘因(薬剤・感染症等)により惹起された低体温・呼吸不全・循環不全・低ナトリウム血症等により、中枢神経系の機能障害を来す病態」とあります。難しいですね。私は、ここまで重傷な症例は経験したことはありません。

詳細は割愛しますが、甲状腺機能低下症は血液検査でホルモン値等を測定し、甲状腺ホルモンの数値が低かった場合、投薬にて治療が開始されます。ユウサイロイドシック症候群(甲状腺が正常であるにも関わらず、他の疾患によって甲状腺ホルモン濃度が低値となる病態)という問題がありますが、それはまた別の検査などを行い、しっかりと鑑別すれば大丈夫です。

薬はそれほど高価ではありませんが、国内で入手できる薬は用量が少ない為、大型犬だと1回に何錠も服用する必要があります。体重によっては10錠/日とか…。病院によっては錠剤計算での薬価になる場合もあるので、それだと高価になってしまうかもしれません。因みに、当院では国内規格にはない海外薬を輸入し、1錠で対応できる薬を扱っています。

病気に関する話はここまでで、今回は「見た目でわかる甲状腺機能低下症」なので写真でご説明します。

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初診時、鼻すじが見事に脱毛し、地肌が黒っぽく色素沈着を起こしています。脱毛症の鑑別として皮膚検査を行いましたが、異常なしです。

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先ほどの写真の全体像です。すごく悲しそうな顔(sad face)をしているのが分かります。そして、かなりの肥満です!また、太っている影響なのか、最近ではあまり動かなくなったそうです。

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確定診断を行った後、甲状腺ホルモン剤による治療を開始して、3週間後の写真です。初診時と比べてちょっと表情が良くなっています。そして、体重も減量頑張りました。薬により脂質代謝もよくなるので脂肪燃焼が以前より改善されています。

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治療開始5週間後の写真です。鼻筋の脱毛部に発毛が見られハゲが改善されてきています。顔もシュッとしています。

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見て下さい、この表情!すっかり別の犬です(角度の問題はありますが)。なんとも凜々しい表情ではないでしょうか?因みに、元々餌の与えすぎでだいぶ太っていたため、痩せてきても皮がだいぶ余っております。

この様に見た目ですぐに病気が鑑別(=snap diagnosis)できればよいのですが、ここまで典型的な症状を示している個体はそれほど多くありません。ですので、定期的な健康診断をお勧めします。7歳位までは最低年に1回、それ以上は年に2回以上の健診をお勧めします。