先日、痒みに対する新しい治療薬「アポキル」が販売されましたという記事を書きました。

今回は、アポキルと従来行っていた治療について軽くご説明します。

「痒み」に対する治療方法として、ざっくり分けると「炎症反応を抑え込む治療」と「炎症を起きにくくする治療」が行われてました。

その中で、動物医療において使用頻度が多かったのが経口ステロイド(副腎皮質ホルモン剤)剤です。

経口ステロイドは様々な炎症反応を伴う疾患で多用されており、その高い即効性と有効性は他の薬と比べて抜きん出ており、かつ低価格であるが為に頻繁に使われてきました。しかしながら、副作用を伴うために最近では飼主様のステロイド剤使用に対する恐怖感や拒否感がみられる傾向もあります。薬剤を適切に使用すればそこまで恐ろしい副作用にはなかなか遭遇しないのですが、なかなかどうして難しい問題です。

そして、同じステロイド剤でも外用ステロイドというものもあります。

この薬はスプレータイプと軟膏タイプの2つが主に使われています。これらの薬は局所投与であがる故に高い有効性があり、即効性があります。しかしながら、適応が局所投与に限定されており、広範囲の症状には不向きです。また、長期間多用することでステロイド皮膚炎という副作用が起きます。

ステロイド以外に、アトピー性皮膚炎というアレルギー症状を起こしやすい体質の犬に対する長期的な管理・治療薬として使用されてきた経口シクロスポリン製剤というものもあります。

これは免疫反応を抑える薬としてステロイドを使用してもよいのですが、長期投与に伴う副作用を防ぐために使用しています。この薬でも勿論副作用もありますが、ステロイドと比較しても高い安全性とアトピー性皮膚炎には高い有効性が証明されており、当院でも多くの患者さんに使用しています。ただし、この薬は万能ではなく効果が発現するまでにかなりの時間(3~4週間)がかかり、適応範囲もアトピー性皮膚炎に限定されてしまいます。また、薬の形状がカプセル状であり、食間に服用させる必要がある為、投薬の難しさがあります。何よりも非常に高価です。

もう一つとして、注射用インターフェロン製剤というものもあります。

インターフェロンγ(IFN-γ)という成分を注射することで、アレルギーの反応経路であるTh2という免疫細胞(ヘルパーT細胞)に拮抗して、IgEの産生を抑えることでアレルギーが起きづらい体質にするというのがこの薬の目的です。

つまり、IgEが増えるとアレルギー体質になります。アトピーの患者さんは、このIgEの産生が体質的に作りやすくなっていると云われています。IgEは肥満細胞とセットで働き、抗原刺激があると肥満細胞からヒスタミンなどを放出し、炎症反応を引き起こします。

一応、これらの理論から高い有効性があると云われておりますが、正直なところデメリットの方が強いので当院では使用していません。製剤が注射の為、投与時に痛みを伴い、効果が発現するまでには時間もかかり1週間に何回かの通院が必要になります。また、継続的な投与も必要になるので投与が煩雑なのが欠点です。また、回数をこなさなければいけないのでその分、費用がかかります。

在宅での治療が行えないし、飼主様と患者さんの費用的にも身体的なストレス的にも負担がでかい割に、対費用効果があまり高くないです。

基本的にアレルギー性皮膚炎やアトピー性皮膚炎の治療は、これらの薬剤に加えて、シャンプー療法など様々な治療を組み合わせての治療になるため、個体差が激しく、これが一番に効く!というものが難しかったりします。アトピー性皮膚炎は治せないので、長期的なケアが必要になります。

犬の場合、様々な原因により発生した痒みが原因で二次的に皮膚バリア機能を破壊して、さらに皮膚の状態が悪くなることが分かっています。その中で、痒みの原因がアレルギーやアトピー性皮膚炎であったと診断された場合、その痒みを軽減することができるのが「アポキル(オクラシチニブ)」という薬剤です。

この薬は万能薬ではありません。痒みが100%なくなるわけでもありません。しかしながら、投与前と比べ明らかに痒みが軽減され、掻爬行動からくる皮膚の二次被害を確実に軽減できます。症状が軽ければ、アポキル単体で維持が可能ですが、重篤な場合は多剤併用する必要があります。

いままでは痒みの原因が細菌や酵母真菌などの感染症以外は、その原因を特定するには多くの時間がかかりました。その間、何もしなければ痒みが原因で掻爬行動が起こり、皮膚が傷つき、より皮膚の状態を悪化してしまいます。

この事から、原因が特定するまでの間の猶予期間が得られるというのが最大の利点だと考えています。従来は、ステロイドしかなかったので使用してしまうと、痒みは治まりますが、同時に免疫反応も抑えてしまうので評価がなかなか難しかったりしました。

費用的な面でいいますと、ステロイドよりは高価になりますが、シクロスポリンよりは安くて錠剤が小さめなので投与が簡単です。

現在、日本国内では連続使用が1年間と限定されてしまっておりますが、海外ではその制限はなく、3年投与の実績があるようです。

本剤は、長期な治療管理でステロイド代替えの選択肢の1つ的な扱いになります。全ての症例で本剤が適応になるわけではありません。

長々と専門用語だらけで難しい長文になってしまいましたが、上記の事を踏まえた上で、痒みでお悩みの方がいましたらご相談ください。