動物病院業界の中で1年で暇な時期が2月です。なのでブログを書いている時間もあります。暦上では立春ですが、北海道の場合は一番寒くなる月ですので、降雪や極寒なども要因の一つなのかもしれませんね。
そして、猫にとって、この時期に注意をしなければならないのが泌尿器に関わるトラブルです。
なぜ冬に猫の泌尿器トラブルが発生するのか、諸説あるようですが、もともと水をあまり飲まない猫がこの時期は更に水を飲まなくなるらしく、尿が濃縮されて結石が形成されやすくなるのだとか…。そして、寒いからトイレに行きたがらないとか、寒いのでよく寝ているから等など。とある統計データでは他の時期に比べると2倍近く泌尿器のトラブルが発症しやすいようです。
本州ではこの定義がかなり当てはまっていたのですが、北海道では少し事情が異なりまして、各々の家庭で異なるとは思いますが、真夏のような暖かさまでがんがんと暖房をたく事も多く、むしろ冬のほうが暑いといった状況なのですよね。戸建ての場合は、ほぼ全部屋暖房で温かいので猫ちゃんも寒さをあまり感じない状況のようです。
その為、むしろ乾燥するので逆にのどが渇いていつもより水を飲むような気もしていますし、実際に当院では猫の泌尿器系トラブルは冬のほうが少ないです。
泌尿器系トラブルの代表的なものが尿石症による膀胱炎、尿道閉塞による急性腎機能障害があります。
これらは尿が濃縮されることで尿中のミネラル成分が過飽和を起こして形成されます。排尿のたびに尿道や膀胱の粘膜が刺激され炎症を起こして腫れたり、砂粒状になった結石が尿道の一番狭い場所で流れずに詰まってしまうことで閉塞を起こしてしまったりします。
いわゆる下部尿路疾患と呼ばれるこの病気は、食事療法で予防が可能なため、一昔前よりはかなり少なくなりました。尿結石に配慮された食事も多くなりましたし、飼主さん側の知識の向上も寄与していると思われます。
そして、下部尿路系の疾患が少なくなってきたかな?と思いきや、今度は尿管結石、または非結石性の狭窄や尿管閉塞による水腎症が増えてきた気がします。
尿というのは腎臓で作られ、腎盂を経由し尿管に入ります。そして尿管から膀胱に尿が蓄積され、排尿により尿道を経由し体外へ排出されます。下部尿路疾患は膀胱から尿道を経由し、そとへ出る経路で起きる病気です。
尿管閉塞による水腎症は、腎臓から腎盂を通って尿管に入り、そして蠕動運動により膀胱へ運ばれる経路の途中で起きる疾患です。
次の画像は、人の水腎症に関する情報サイトからの引用ですが、尿管結石による水腎症を的確に示した画像です。
yo-tsu.org(水腎症)より画像引用
猫の尿管、その直径は1mm、そして内径は0.4~0.6mmと非常に極細な管なのです。その為、1mmにも満たない微小な結石であっても閉塞を起こしたり、それらが流れた後に粘膜の炎症が起きて狭窄が起きたりします。
尿管閉塞を起こすと尿が膀胱へ流れないため、腎盂にたまり近位尿管および腎盂が拡張します。そして、逆行性に老廃物が血流に流れてしまうため、高窒素血症になります。
下の写真は片側性の尿管閉塞を起こし腎盂が拡張した腎臓(左側)と正常腎臓(右側)の超音波画像です。
片側性の場合だと多くは無症状で、一過性の嘔吐や軽度の食欲不振、元気がない等の症状を示す個体もいます。水腎症は、左の画像がより進行した状態となります。そして、万が一、両側が閉塞してしまった場合は、数日以内に尿毒症に陥り絶命してしまいます。
検査の方法は、腹部レントゲン検査と腹部超音波検査です。血液検査にてBUN・Cre等の数値も確認します。
結石がない状態でも尿管閉塞を起こす(軟性栓子、炎症による狭窄、周辺組織からの拘縮や圧迫など)ので、しっかりとした検査(毛刈り含)が必要です。その際は超音波検査にて腎臓・膀胱間をチェックし、閉塞・狭窄部位はどこかなどを確認します(消化管の影響で見えないこともしばしばしあります)。
画像検査の前に、水腎症になっている場合は腎臓が腫れている為、腎臓の触診で痛みを伴う事があるので、まずは身体検査をします。
治療は、基本的には外科的介入により閉塞物の摘出を行い再開通を目指します。ただし、手術はかなり大変です。
現在では様々な手術方法があり、尿道を経由せずにインプラントを入れてのバイパス手術(尿路迂回治療)が流行りなのですが、Cアームという特殊な機器がないと腎盂内への確実的な設置が難しいようです(腎盂が著しく拡張している場合はなくても大丈夫みたい)。尿管ステントを膀胱から尿管を経由して腎盂まで入れる方法もありますが、途中で尿管を損傷させたり、再発しやすい(3割位)とも言われています。拡張した尿管と膀胱を繋ぎ合わせる方法もあります(これがインプラントによる合併症や再発率が一番低い)。尿管を切って閉塞物を摘出するやり方の場合は術後狭窄のため、再手術が必要になる事もしばしばし…。なかなかどうして、我々のようなプライマリー病院では対応が難しい手術となります。
もう一つ、片側性で臨床症状もそれほど悪くなく、状態の良い場合は、内科的な治療が有効な場合があります。
結石による閉塞がなく、周辺組織からの圧迫等もない場合、ステロイドによる抗炎症治療により内科的に完治した症例が多数います。学会でも発表されていますし、当院でも治療実績があります。
当院には残念ながら流行りのSubシステムによる迂回手術は行なえません。現在のところ、ステントか尿管-膀胱吻合術しかできません。なので、難しい尿管系手術を行うため、豚の腎臓と膀胱を使ってトレーニングしたりしております。やってないと忘れてしまう…。
下の写真は、尿管を切って縫合したり、膀胱に尿管を新しく吻合する手術の練習をした際の様子です。
豚の尿管は猫と比べてかなり太いので実際とは異なりますが、こんな事を定期的に行っております。生体ではないので、あくまで手技を維持するための練習です。糸は6-0とか7-0といったかなり細い糸を使用するので、ルーペが必須になります。老眼なので…
ですが、こういったことの積み重ねが外科手術には必要なので日々の研鑽は怠れません。定期的にセミナーや外科講習会等にて臨時休診になったりしておりますが、こんな事をやりに行っております。なので「休みだったから!ウンタラカンタラ」とか、あまり言わないでやって下さい。