前回のスコティッシュフォールドの遺伝子疾患である骨軟骨異形成症について書きましたが、今回はもう一つの遺伝子疾患である多発性嚢胞腎(PKD: Polycystic Kidney Disease)という疾患についてです。
まず最初に、この遺伝子疾患は前回の骨軟骨異形成症とは異なり、スコティッシュフォールド特有の遺伝子疾患ではありません。
常染色体顕性(優性)疾患であるネコ多発性嚢胞腎 (PKD) は、主にペルシャ、またはペルシャ近縁のネコで発生し、ネコの PKD1 遺伝子の突然変異(エクソン2 9 の3284 番目のC→A 塩基置換)により引き起こされる疾患です。PKDは、世界中のペルシャ猫の約38%、つまり猫の約6%に影響を及ぼし、最も顕著な猫の遺伝性疾患となっています。
殆どの猫で何年もの間、無症候性(病気を有しているが何も症状を起こさない状態)であることが多く、症状が出ている場合は病状がかなり進行してしまっている状態です。
とある研究においてPKD1変異の割合が最も高い猫種はペルシャ (46%)、スコティッシュフォールド (54%)、アメリカンショートヘア (47%) でした。しかし、雑種の猫もPKD1変異の割合が高いこともわかりました。
今回、PKDをスコティッシュフォールドの遺伝子疾患として取り上げた理由として、昔と比べてスコティッシュフォールドの飼育割合が年々増えてきており、かつペルシャ系やアメリカンショートヘアの飼育数減少により、病気が目立つようになってきたからです。
※一般的な腎臓の形状(高齢猫の腎臓の為、正常とはいえませんが、比較対象として…)
多発性嚢胞腎 (PKD) は、猫や人間などの他の哺乳類に影響を与える病気です。
一般的な名前は、常染色体顕性(優性)多発性嚢胞腎 (ADPKD) であり、腎臓、時には肝臓や膵臓などの他の臓器で、液体で満たされた嚢胞の進行性の発達を引き起こします。詳しいメカニズムは解明されていませんが、嚢胞を形成する尿細管細胞が絶えず増殖しており、同時に嚢胞内に水とCl-が分泌され続けることがわかっています。つまり、嚢胞内は尿ではなく、水とCl-、血液成分という事になります。嚢胞の形成と成長はゆっくりと進行し、腎組織の劣化と腎機能の漸進的な低下を引き起こし、不可逆的な腎不全につながります。嚢胞の内の水も初期の頃は透明なのですが、時間の経過とともに赤色に変わることが多いです。
症状が出ないため、超音波検査にて腎嚢胞があるかを確認するの事が最も信頼性のある方法です。また、技術が進歩した昨今ではPCR検査にてPKD1遺伝子の変異があるかどうかを調べることが可能です。
ですので、好発品種であるペルシャやスコティッシュフォールド、アメリカンショートヘアは若齢期より定期的な腎臓の超音波検査を行うことを強く推奨します。
遺伝子検査を行いPKDリスクがあるかを判定することが最も確実ですが、費用は超音波検査よりも高額になります。
当院で確認された最年少PKD患者は生後11か月齢でした。正確な発症時期は不明です。
その為、当院では好発品種に関しては不妊手術や去勢手術の術前検査において必ず腎臓の超音波検査を実施しております。
この疾患は、骨軟骨異形成症と同じで遺伝子の異常によってもたらされる疾患の為、残念ながら予防も治療もできません。最終的に腎機能不全状態に陥り絶命してしまいます。
PKDは初期〜中程度では腎数値に変化が見られないことが大半で、偶発的に発見される場合もしばしば。症状が出てしまった場合はかなり重症化していると思っていただいた方が良いです。根治療法はなく、対症療法により維持することが精いっぱいです。
一般的な治療法としては腎臓に負荷をかけない為の腎臓療法食、腎数値が高い場合や脱水が認められる場合は補液療法があります。
しかしながら、腎臓療法食の場合は少し注意が必要です。無機リンを下げる目的でCaが添加されている為、高Ca血症になる場合があります。長期的には腎結石や尿管結石のリスク要因になるため療法食が推奨されない事もあります。確認の為、定期的な血液検査が必要です。
腎嚢胞の有無を確認するだけであれば剃毛しなくても超音波検査は可能ですので、ご希望の場合は予約時にその旨を伝えてください。
来院されてから検査を希望しても、検査時間を確保できない場合があります。
PKDは、異常な遺伝子を持った個体をブリーディングに用いないの一言に尽きるのですが、動物取扱業の闇が深すぎて根絶できません。次から次へと新しい交雑種が増えて異常な遺伝子が継代されていってしまっている昨今、根絶は絶望的なのもしれません。