猫でanicom損保が毎年発表している猫の品種ランキングで1位になっているのがスコティッシュフォールド。
スコティッシュフォールドはanicomのランキング調査で14年間連続1位をキープし続ける不動の人気猫種です。
当院に通院されている猫もスコティッシュフォールドの割合は非常に高く、交雑種の次に多い感じです。
その為、色々な問題に遭遇する機会も非常に多く、苦慮しております。
それはスコティッシュフォールドの折れ耳(fold)が、遺伝子の異常によって起きている、いわゆる奇形だからです。
現在判明している事としてスコティッシュフォールドは、TRPV4(Transient Receptor Potential cation channel subfamily V member 4)という遺伝子が壊れており、細胞表面にある非選択的陽イオンチャンネル(Caの流入・流出を制御している所)を形成する遺伝子の異常(機能的亢進)により肥大軟骨細胞がうまくアポトーシス(細胞の自然死)できず、ネクローシス(壊死)してしまうことで、成長期の軟骨内で起こる軟骨内骨化ができなくなったことで骨の異常が発生します。
この遺伝子は常染色性不完全顕性(優性)遺伝であり、折れ耳とリンクします。常染色体性なので雌雄差はありません。かつ、顕性(優性)遺伝の為、毎世代で必ず遺伝します。
・A dominant TRPV4 variant underlies osteochondrodyplasia in Scottish fold cats /Osteoarthritis & Cartilage 2016,http://dx.doi.org/10.1016/j.joca.2016.03.019
折れ耳でないスコティッシュフォールドが札幌近郊のペットショップでは普通に販売されているみたいが、それらの個体はTRPV4に異常がない為、骨軟骨異形成症になるリスクはほぼありません。
折れ耳はTRPV4に異常があるため、軟骨異常により生後3〜4週間位で耳が折れ曲がってきます。
つまり、折れ耳でない場合はTRPV4に異常がないからスコティッシュ「フォールド(fold)」とは本来は名乗れない?いわゆる立耳スコティッシュです。
この猫種は交配には注意が必要なため、遺伝子異常を持ち合わせていない猫とのかけ合わせをしていることからTRPV4に異常がない個体も生まれます。調べてみないとわかりませんが、遺伝子キャリアーにもなっていない個体は普通にいます。購入時には注意しましょう。
肢の長〜いマンチカンも結構います。北海道限定なのか全国的なものなのかは不明です。
血統書なんてものはただの飾りだという事がわかります。
どうして遺伝子的に影響がでる場合と出ない場合が起こるのかは「メンデルの法則」を思い出してみましょう!
これらを分かっていてブリーディングしている人は業界には少ないのかもしれません。
上の図は「優性の法則」です。特徴が現れるのが顕性(優性)、現れないのが潜性(劣性)
そして「分離の法則」:AaとAaとでは、AA,Aa,Aa,aaというような感じになります。
つまり、折れ耳と折れ耳を交配させると優性ホモというAAが出てしまい重症化、Aaというヘテロ接合も割合係数的に半数を占めます(折れ耳遺伝子を有する)。aaは折れ耳遺伝子を有してない。つまり、75%が発症します。
逆に折れ耳と正常個体を交配させるとどうなるかですが、顕性(優性)ホモは絶対に出ず、ヘテロ接合と野生型が半々となります。
結論から言えば、折れ耳はTRPV4に異常があるので症状の程度は個体差がありますが、発症します。
では、スコティッシュフォールドで問題となる骨軟骨異形成症とはいったいなんなのでしょうか?
それは、骨の成長に異常が現れる病気であり、軟骨の発育と発達が障害されます。軟骨の成熟異常に伴い、骨変形や外骨腫の形成、ひいては骨関節炎を引き起こしてしまう疾患です。
この写真は「スコ座り」ですが、関節が痛い為に普通に座ることができない事で起こる座り方です。常にこんな座り方していませんか?お腹をグルーミングする際にも同様の座り方をしますが、スコティッシュフォールドがする座り方なので、この名称がついています。
よくしている場合は、もしかしたら足が痛くてこういう座り方をしているかもしれません。
他にも目に見えてわかる変化としては、いわゆる骨瘤というコブが骨に発生します。好発部位は後肢の中足骨(踵と足先の間にある骨)です。前肢にも発生します。
しかしながら、この骨瘤、折れ耳なのに骨瘤を作る猫と作らない猫がいます。
当院でも骨瘤がある個体とない個体、そして骨瘤が片側にだけある個体、当院では割合は50:45:5です。
遺伝子が専門の那須野ヶ原アニマルクリニック 院長 鷹栖雅峰先生の研究によると、骨軟骨異形成症を起こす遺伝子TRPV4の塩基配列の接合に違いがあることが分かったとのことです。骨瘤を起こす個体は、一部の遺伝子接合がTTなのに対し、骨瘤を起こさない個体は同部位の接合がGTであったとのことです。GGが正常。
骨瘤型は、中足骨の湾曲や指骨骨端部構造の異常化、踵や手根部に外骨腫(骨瘤)の形成が起きます。
通常は後肢から始まり、ついで前肢に移行していきます。
尾椎にも出現しますが、胸椎、上腕骨や大腿骨・橈骨などの長骨には発生が起きません。
生後12カ月前後で発生し、症状は進行性です。
これらの症状は遺伝子の異常で起きている問題の為、発症を防ぐことも予防することもできません。つまり、予防もできないし、完治もできません。
治療方法として放射線照射や骨瘤切除が試みられています。
放射線照射により歩行異常の改善や活動性の改善はみられるので現在の所、これが骨瘤型の治療には一番最適なのかもしれませんが、骨削りは処置後に骨増生が発生するので効果は限定的です。
骨瘤がひどい場合は骨削りと放射線照射の併用がベストと思われます。
非骨瘤型は、中手骨や指骨部骨端形状のいびつ化、手根関節付近の骨形の不鮮明化、尾椎には異常はでません。
また、中足骨の湾曲が見られますが手足のみに限定的です。
高齢化に伴い骨膜反応が強くできることがあり前肢よりも後肢に骨棘のような骨の隆起症状が出ることが多いです。
症状は軽度に進行性です。
生後6カ月前後で発生し、時折、骨瘤を形成する個体もいますが両側性ではなく片側性であることが多い。
骨瘤型の場合は若齢でも疼痛や跛行や歩行困難が見られますが、非骨瘤型は一見すると全くの無症状に見えます。
しかしならが非骨瘤型でも将来的には通常の猫と比べて関節炎(骨膜反応)を起こすリスクが高い為、早めに対応をする必要性があります。
痛みがあるのであれば消炎鎮痛剤による疼痛管理や体重管理、定期的に進行度合いを確認するためにレントゲン撮影による評価を行いましょう。
非骨瘤型に関しても体重管理やレントゲン撮影による定期的検査を推奨します。また、アンチノールなどの副作用を伴わない脂肪酸による抗炎症サプリの長期投与が非常に有用なので、飲める個体は積極的に投与をお勧めします。
結論として、スコティッシュフォールドを新しく迎えることを検討する場合は、こういった遺伝子異常によりあの可愛らしい見た目が作られており、将来的に四肢に異常を起こすということを知識として理解した上での飼育をお願いします。
近年ではスコティッシュフォールド×マンチカンという骨の異常同士でのブリーディングも平然と行われており、無法地帯となっています。
本当に動物取扱業者の闇はすごく深いです。
スコティッシュフォールドの遺伝子疾患②に続きます。