医療機器の発達と共に、今までは症状が進行するまで見落とされていた疾患も早期に発見できるようになりました。
特に言葉を発すことができない動物たちはより症状が進行した状態で発見されることが多く、人間のようになかなか早期発見・早期治療ができないのが実情です。
当院では日常的な身体検査、個体ごとの基準値作成のための定期的な血液検査を推奨しております。
しかしながら、身体検査や血液検査だけでは異常が見つからない事も多く、レントゲンや超音波(エコー)検査といった侵襲性のない検査を併用することで血液検査ではフォローできない領域をカバーしています。
もちろん、品種好発性疾患というものもあり、症状がないときに検査を実施し、記録しておく事も大切な健康管理の一環になります。症状が出た場合、この時には異常がないことがわかっていれば、先天性なのか後天性なのかの判断もできます。
先天性であれば、病状が進行するかはわかりませんが定期的なモニタリングをすることで、食事療法やサプリメント療法を用いて症状の発症を遅らせたり、軽減できる場合もあります。後天性の場合は、内科的にコントルールできるものでは内科治療で、外科的介入が必要なものは症状がでて重症化してからでは遅い為(合併症等による術中・術後死の確率が上がる)、なるべく早く介入を促すなどの対応が可能となります。
次に紹介する画像は、犬における品種好発性疾患の1例です。
このエコー画像は何かというと、とあるチワワさんの脳のエコー画像です。
左の写真が冠状断(コロナル)、右が矢状断面像(サジタル)です。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』横断面より画像引用
黒く見える所は脳脊髄液(脳室系とクモ膜下腔を満たす、無色透明な液体の事)が溜まっている領域で、その直下の白く見えている領域が脳実質です。この画像だけみると獣医師は「水頭症」と診断します。
何らかの原因(先天性、後天性)によって脳髄液の循環や吸収に障害が起こり、その結果として脳室内髄液量が増えてしまい、脳室が異常に拡大した状態を水頭症と呼びます。あくまで定義上の話です。
上の画像は一般的なチワワさんの脳のエコー画像です。左が冠状断、右が矢状断面像です。
一応、画像診断学的検査というのがありまして、脳室-大脳比(VB比)というものを測定します。
※VB比=(側脳室の高さ/大脳の高さ×100)
基準として、VB比が15%未満は正常、15~24%を中程度の拡大、25%以上を重度拡大という規定がありますが、あくまで脳室拡大の目安なので、この数値だけでは水頭症とは診断しません。その他にも身体検査や神経学的検査な検査、脳室拡大を起こす原因があるかないか等を総合的にみて判断します。
ちなみに、重度の脳室拡大を呈していた上の写真の犬ですが、神経学的な異常はほぼ認められず、日常生活も問題なく過ごしています。別件で来院され、大泉門が大きかったのとチワワという犬種から脳室拡大が認められる場合があるので、評価のために調べておいた方がよいですという流れで調べたら…「異常ありました」という結果です。
水頭症という病気の説明は、長くなってしまうので今回は割愛します。
何が言いたいかと申しますと、症状を伴っていなくても超音波検査をすると「無症状だが、異常」ということが多く見つかります。エコー検査でよく見つかる異常としては、胆泥症が業界内ではもっともポピュラーかもしれません。
かくいう私も、人間ドックの甲状腺超音波検査で腫瘍が見つかったわけです。初日の脳ドックの一番始めに行った検査で異常ありです…。PET-CTでもバッチリ異常が見つかりましたけど…。症状は伴ってなくても、詳細な血液検査を実施したら、数値の異常を伴っておりました。無症状の中でも病はゆっくりと、または急速に進行し、身体を蝕んでいきます。今年、人間ドックに行っていなかったらと思うと、ゾッとします。さすが大殺界中です。
動物におけるエコー検査は、検査部位の剃毛が殆どの場合で必要になります。簡易的に見る分にはアルコールで毛を湿らせて、その隙間からチラ見することは可能ですが、ノイズが入るので解像度が落ち、評価に影響を与えてしまいます。しっかりと見るのであれば、やはり剃毛はして評価を行ったほうが確実です。かなり目立つ所の剃毛やポメラニアンさんに関しては要相談の上、実施します。
現在、当院では品種好発性疾患を元に、一般的な健診プログラム(身体検査・尿検査・血液検査)+α(オプション)を個別に設定して行っています。
例えば、チワワやマルチーズ等の小型犬種では心臓病が多いので心臓エコー検査や心電図を、ヨークシャーテリアやミニチュアシュナウザーでは肝臓疾患や消化管疾患が多いので腹部レントゲン検査や腹部エコー検査を、猫ではペルシャに多発性腎嚢胞が起きやすいので腎臓エコー検査をといった感じです。
興味がある方は診察の際に、獣医師、またはスタッフにお伝え下さい。