今回は猫でよく見られる猫破歯細胞性吸収病変FORL(Feline Odontoclastic Resorptive Lesions)についてです。

歯の吸収は、破骨細胞に類似した細胞による永久歯の石灰化物質に対する進行性の破壊を特徴とする疾患です。
分かりやすく説明すると、自分の細胞が自分の歯を壊してしまう病気です。

このFORLは猫で見られる最も一般的な口腔疾患の1つで、痛みを伴います。
猫ほどではありませんが、犬にも見られます。

ただ、この病気は有病率が高いにもかかわらず、獣医領域における病名や分類、診断、および治療について基準が定まっておらず複数の同病異名が存在します。人歯科領域においても不明なことが多い疾患です。

・猫破歯細胞性吸収病変(FORL)
・頚部病変(ネックリージョン)
・歯頚部浸食
・歯肉縁下吸収病変
・ネコカリエス(虫歯)
等があります。

どういう機序で破骨細胞が歯に影響を与えるのかを論文で読んだのですが・・・
以下、要約します。

歯の吸収は、破骨細胞によって行われる。
破骨細胞は、組織学的、存在論的、生化学的に破骨細胞と類似しており、おそらく同一であると思われる。
破骨細胞も骨芽細胞も骨髄や脾臓の造血幹細胞から発生する。
これらの細胞は、マクロファージの成熟経路をたどり、最終分化段階において、破骨細胞前駆体に成長する。
前駆細胞は全身に移動し、刺激を受けると融合して多核の成熟した破骨細胞となる。
破骨細胞は、歯槽骨や歯根膜の血管内に移動する。
成熟した破骨細胞は、骨や歯の石灰化組織中の特定のタンパク質に結合して、歯面に付着する。
破骨細胞と他の細胞とを区別するフリル状の細胞膜が歯面に接触する。
この接着により、密閉された吸収区画が形成され、破骨細胞の活動は密閉内に含まれる歯の領域に限定される。
水素イオンとタンパク質分解酵素を含む細胞内小胞が破骨細胞膜と融合して内容物を放出し、付着している歯の硬組織を溶かす。
破骨細胞は、歯根表面のどこにでも、あるいは数カ所に同時に付着することができるが、エナメル質表面に付着することはまれである。
そして、セメント質から冠状象牙質、根尖象牙質へと吸収が進行する。

以上です。

正直言って「なんのこっちゃ」という感じです。おおよその機序は何となく理解できます。
でも、それを他の人にうまく説明できる語彙力がありません。
つまり、骨髄や造血幹細胞由来の細胞で成熟したものが歯根部や歯肉の血管を介して歯面に移動し、そこで何らかの作用が関与して歯の硬い組織を溶かしてしまう現象という理解でよろしいかと思います。

歯の吸収(Tooth Resorption)は、主に歯肉境界での歯の表層浸食として現れます。
大抵の場合、TRは歯石や歯肉組織で覆われているので発見が難しいです。
繰り返しになりますが、この歯の吸収病変は進行性疾患です。

通常はセメント質と象牙質の喪失から始まり、最終的に歯髄腔へ至ります。
歯の吸収は、象牙細管から歯冠まで続きます。
エナメル質が吸収されたり、歯が破折するほど削られたりもします。
吸収されたセメント質と象牙質は骨様組織に置き換わります。

AVDCにTRの始まりを図説したものがあったので画像引用させていただきました。※歯の吸収ステージ © AVDC®

ステージ1:軽度の歯牙硬組織の喪失(セメント質、またはセメント質とエナメル質)
ステージ2:中等度の歯牙硬組織の喪失(セメント質、またはセメント質とエナメル質で、歯髄腔に及ばない象牙質の喪失がある)
ステージ3:深部歯牙硬組織の喪失(セメント質、またはセメント質とエナメル質、象牙質の喪失が歯髄腔まで及ぶ);歯の大部分は形状を保っている。
ステージ4:広範な歯牙硬質組織の喪失(セメント質、または象牙質の喪失が歯髄腔に及ぶセメント質とエナメル質);歯の大部分が形状を失くしている。

左の写真は見た目ステージ2に見えますが、実はステージ3です。病変は歯髄腔まで達していました。外観だけでは判断できませんので、診断にはレントゲン検査が必要になります。
右の写真はステージ4、歯冠の大部分が消失してしまっており、歯肉が盛り上がり歯を被っています。

この写真は歯根部が骨吸収を起こしてます。歯の外観を見ただけでは全くわかりません。
歯科診察の時のレントゲン検査で骨吸収しているのが事前に判明しました。
通常のDRによる口外法レントゲン撮影でも判明しますので、無麻酔でも検査できます。
ただし、しっかりと綺麗に撮影するには鎮静・麻酔が必要になります。

猫破歯細胞性吸収病変(FORL)治療ですが、ステージ1の初期は正直云ってわかりません。
発見されるのはステージ2以上からになります。
この疾患は軽度であっても進行性の為、虫歯治療のように腐食部のみを歯を削って欠損部をレジンで埋めても時間経過と共に吸収が進行します。数か月もすればレジン内側または周辺で骨吸収が起きますので、最終的には抜歯という形になってしまいます。
そういう症例報告論文も多々あります。レーザーによる治療も有効ではありません。

ですので、痛みから解放するという目的から考えると、罹患した歯への治療は「抜歯」が第一選択という事になってしまいます。


歯冠の大半が吸収され、歯肉に覆われた余剰部分を切除し、歯頸部を露出させた後、ラウンドバーというドリルにて下顎骨の一部を削って歯根部を露出させてから抜歯しました。痛々しい処置になりますが、歯根部も骨吸収を起こしている為、エレベーターを使用した通常抜歯法だと歯が脆く壊れて残根してしまう関係上必要な処置になります。その後、歯根部の洗浄等を行い歯肉を縫合します。

歯石が多くて吸収病変が隠れていることも多々あり、一般的な肉眼での口腔内検査には限界があります。
ですので、可能な限り歯科検査にレントゲン撮影を併用することを推奨します。