定期的に更新すると云っておきながら、全く更新できていないブログの更新です。

1つの内容を書くのに1-2カ月かかります・・・。最近、Evidence、Evidenceと界隈がうるさくて…

今回は臨床獣医師の大半が経験している猫の慢性歯肉口内炎に関して情報をまとめてみました。
publishされた論文をベースにまとめてみました。

治療内容に関して。国内では行っていない、行えない治療方法もあります。

猫の口内炎とは
猫の口腔粘膜組織(特に歯肉、歯槽粘膜、唇および頬粘膜、舌下粘膜、尾側口腔粘膜)の炎症が徐々に悪化し、不快感が増す深刻な病気です。
慢性歯肉口内炎、または慢性リンパ性形質細胞性口内炎複合体としても知られる猫の口内炎は、より一般的な形態の口内炎(尿毒症、腐食性物質の摂取、電気火傷、刺激物、またはその他の原因による粘膜炎症)とは異なります。

病因
猫の口内炎は、免疫介在性疾患、または 1 つ以上の抗原に対する不適切な炎症反応の結果であると考えられます。
また、この疾患は口腔内、歯垢保持表面 (歯)、または歯周靭帯上の歯垢細菌に対する過剰免疫反応であるとも考えられています。

猫の口内炎に関連する感染因子には、猫ヘルペスウイルス(FHV-1)、猫カリシウイルス(FCV)、猫白血病ウイル(FeLV)、猫免疫不全ウイルス(FIV)などのウイルス、ならびにバルトネラ・ヘンセラ等の特定の細菌が含まれます。

罹患した猫の多くは(一部の研究では最大100%)、猫カリシウイルス(FCV)の慢性キャリアです。

臨床症状
猫の口内炎は、口蓋舌溝およびその外側の尾側口腔内の粘膜がひどく潰瘍化し、脆くなり炎症を起こし粘膜が増殖していることが多く、口を開けたり、噛んだり、飲み込んだりするときに痛みが生じます

最も直接的な臨床症状は、口を開けたときの激しい痛みです。
猫はあくびをしたり、口を開けて食べたりするときに鳴いたり、飛び跳ねたりすることがあります。
口臭、嗄声、嚥下障害が認められることもあります。

空腹の猫は、食べ物に近づいたときに接近回避行動を示すことが多く、不快感を予期して逃げ出すことがあります。症状が重度で慢性的な場合は、体重減少が顕著になることがあります。

この病気はゆっくりと進行し、病変が重篤になるまで認識されない場合があります。下顎リンパ節の腫脹が存在する場合があります。

痛みのために口腔内の適切な検査ができないことがよくあります。
その為、正確な状態把握を行う場合は、鎮静剤や麻酔剤なしでは評価が難しいです。

診断
猫の口内炎を診断するための特徴的な臨床徴候は、尾側の口腔内の粘膜の炎症です。

炎症が歯の周囲の歯肉に限定されている場合は、歯肉口内炎ではなく、歯肉炎または歯周炎の診断である可能性が高くなります。

口腔検査では、口蓋舌溝またはその外側の尾側口腔の両側に粘膜炎がみられることがあります。

症状が進行すると、猫はひどい不快感から口を開けることを強く嫌がります。

追加の検査には、PCR検査によるウイルス分離(FCVやFHV-1等)、レトロウイルス検査(FeLVやFIV)、全身疾患の評価(腎不全など)が含まれる場合があります。

非典型的なケース(片側性、通常は増殖性局所病変)では、口腔腫瘍形成またはその他の特定の口腔疾患を除外するために生検および組織学的評価が必要です。

殆どの場合、慢性炎症性病変または潰瘍性病変であり、リンパ球と形質細胞が優位であることが示され、病変が慢性炎症性の性質であることが示されますが、主な病因は解明されません。中には扁平上皮癌などの悪性腫瘍の場合もあり、組織検査は必須と言えます。

治療
口内炎の治療における主な目標は、炎症の除去と痛みの停止であり、多くの場合、薬物療法と外科的介入の組み合わせが必要になります。

過剰な炎症反応を調節するためにグルココルチコイドを単独で投与すると、通常、臨床的に大幅な改善がすぐに得られます。
しかしながら、外科手術(抜歯)を行わない場合、グルココルチコイドを繰り返し使用すると、徐々に効果が低下し、最終的には完全に効果がなくなります。グルココルチコイド治療を繰り返し受けた猫は、抜歯後の予後も悪くなります。長期のグルココルチコイド投与は、糖尿病などの他の合併症にも関連しています。

全臼歯抜歯(前臼歯と後臼歯をすべて抜歯)または全顎抜歯(すべての歯を抜歯)と関連する軟部組織および硬組織のデブリードマンを行うことが、恒久的な改善をもたらし、全体的な長期的管理に役立つ唯一の治療法です。病気の進行初期に全抜歯を行い、抜歯後のレントゲン写真で歯槽骨内に残存歯根や歯片が残っていないことが確認されると、罹患した猫の 60~80% が治癒するか、少なくとも劇的に改善するようです。
最近では、抜歯の範囲(全臼歯抜歯 or 全顎抜歯)が臨床転帰との関連がないという研究もあります。

慢性的に影響を受け、何ヶ月も薬物治療を受けている猫は、術後の予後が悪くなります。

歯が欠損している部分や以前に抜歯した部分に歯根が残っていないことを確認するには、レントゲン撮影が不可欠です。
残根(歯根の破片が残っている)があると病気の改善や治癒が妨げられる可能性があるため、除去する必要があります。

術後の治療では、炎症、感染、痛みの抑制に重点が置かれます。

以下の内容は、論文に書かれている内容をそのまま日本語訳しましたが、一部、意味不明な内容もあったのでそれは削除しました。
「※」は、追加情報と個人的な見解を追記しました。

◯プレドニゾロンなどのグルココルチコイドの経口投与によって誘発される痛みのため、経口ステロイド治療はメチルプレドニゾロンなどのステロイドの注射よりも効果が低くなります。

※激しい痛みがある場合は、皮下注射による治療が必要ですが、私自身は経験により長時間作用型ステロイドは合併症(免疫抑制によるFHV-1やFCVの悪化)のリスクが高いので、数日間のみ注射で治療し、疼痛が少し緩和され、少量でもウェットフードが食べられるようになった段階で内服に切り替えます。この治療の目的はあくまで炎症を抑えて疼痛の緩和であり、第一選択の治療ではないので、手術までの時間稼ぎという扱いです。その為、当院では長時間作用型ステロイドは使っていません。

◯難治性の場合には、インターフェロンΩを経粘膜投与することができます。1 匹の猫につき 1 日 0.1M単位を 90 日間経口投与することが推奨されています (適応外)。ただし、この薬は高価で入手が困難な場合があります。また、結果に一貫性がないようです。

※IFN-Ωの治療は、FHV-1やFCVの抑制に効果があります。論文上では経粘膜となっていますが、皮下注射で治療することが可能です。これは尾側口内炎の原因の一つに猫カリシウイルスの関与が考えられている為、ウイルスの増殖を抑え症状の緩和を図ることを目的としていますが、経験上、内科単独での治療は困難です。
同じような意味合いかと思いますが、海外ではMutoralという経口低分子抗ウイルス薬が難治性尾側口内炎に対して治療効果があるようですが、論文は見つかっていません。成分を調べても検索されません。抗ウイルス薬なのでFCVを殺し、かつ抗炎症・免疫調整成分?で口内炎を治すらしい・・・。治療体験談的なものがありましたが、通販番組の「個人の感想です」的な感じでした・・・。国内でも使われている獣医師がいるようですが、抜歯したほうが早いんじゃない?的な時間経過と費用がかかっていました。麻酔ができない個体には選択肢の一つとしては良いのかな思いますが、治療・効能に関するEvidenceが出たら検討します。でも、円安だから高い・・・

◯猫の口内炎の治療に一般的に使用される抗菌薬には、アモキシシリン-クラブラン酸やクリンダマイシンなどがありますが、治療が効果がない、または一時的にしか効果がない場合があります。慢性または再発性感染症の場合でも、病変の培養および感受性試験が必要になることはほとんどありません。

◯ドキシサイクリンは、口腔細菌に対する効能と炎症を軽減する免疫調節作用の両方があるようです。投与量は、最小有効量まで減らします。炎症がすべて治まれば、治療を中止できます。これには、全顎抜歯後 3~5 か月かかる場合があります。
患者によっては、ドキシサイクリンを無期限に継続する必要があります。ドキシサイクリンの経口投与後、5~6 mL の水を投与して、猫の食道炎のリスクを減らす必要があります。

※歯周病であれば、細菌性プラークが原因となっているので効果はありますが、こと、尾側口内炎では潰瘍病変に出血が起きて二次的な感染がある場合には一定の効果があります。しかしながら、本質は抗原に対する免疫反応のため、効果は限定的です。

◯食事の変更(低アレルギー性で柔らかくて口当たりの良い食事)や局所消毒薬(例:希釈したクロルヘキシジンやアスコルビン酸亜鉛)の投与も検討する必要があります。治療に反応しない慢性の症例(例:重度の体重減少と脱水症状を伴う衰弱した猫)では、栄養補給のための栄養チューブの使用が検討されることがあります。

※食事変更は、咀嚼による疼痛があるときはウェットフードが有効ですが、術後に疼痛が軽減した際には、どの形状でも問題ありません。手術する前までの話になります。消毒に関しては無理・・・。痛いのに口開けて消毒なんて、虐待そのもの・・・。さすが海外の論文です。

◯猫の口内炎には、家庭での口腔衛生、頻繁な歯のクリーニング、歯周組織のデブリードマン、シクロスポリン、ラクトフェリン、レーザー治療、幹細胞治療など、他にも多くの治療法が報告されています。

※幹細胞治療は、自己脂肪由来間葉系幹細胞を培養して、それを血管内投与する治療方法で、全臼歯抜歯や全顎抜歯をしたにもかかわらず尾側口内炎が改善しなかった症例に対して行われた研究です。研究の目的は以下の通りです。

  • 口腔の免疫介在性炎症疾患はヒトでも猫でも一般的であり、難治性の場合、免疫抑制療法が必要になる。

  • FCGS(Feline Chronic Gingivostomatitis:猫の慢性歯肉口内炎)は猫の0.7~12%が罹患していると推測され、抜歯により70%は改善するが、30%は治療抵抗性であり、長期的な免疫抑制療法が必要。

  • MSC(Mesenchymal stem cell:間葉系細胞)は、T細胞の増殖抑制や抗原提示細胞の機能制御などの免疫調節能力を持ち、炎症性疾患に対する治療法として期待されている。

治療後6か月間の評価の結論、抜歯に反応がみられなかった症例にしてMSC療法は、70%で効果があった。
新鮮な自己脂肪由来間葉系幹細胞の静脈内投与は、安全かつ効果的な治療法であり、CD8lo細胞の割合が治療適応を決定する重要なバイオマーカーとなる可能性がある。
FCGSを対象とした本研究は、ヒトの慢性炎症性口腔疾患治療への応用が期待できる。

という内容でした。犬ではステムキュアという脂肪由来間葉経幹細胞製剤があるのですが、猫では幹細胞療法(臨床研究)という形でアニコム系列の組織がなんかやっているようですが、試験研究段階組織なのでよくわかりません。クリーンルームなどの培養施設がなくても、犬のように製品化されたら治療の選択肢が一つ増えますので今後に期待です。