11月から1か月ほど休みがなく、毎度のことながらブログの更新諸々が滞っておりました。
発表の準備や認定試験の勉強等もあるので、どれほどの時間が取れるかは分かりませんが、ボリュームを抑えながら更新していきます。鈍足更新ではありますが、お付き合いいただければ幸いです。
さて、皆様は「シーラント」という言葉を知っていますか?
小さいお子様がいらっしゃる方であれば聞いたことがある、または実際に子供がやっていたので知っているという方も多いかもしれません。
私は歯科の勉強をするまでは全く知りませんでした。なので、知らなくても全く問題はありません。
シーラントは、人において奥歯の溝を物理的に封鎖したり、シーラント材の中に含まれるフッ化物により再石灰化作用を促進したりするむし歯(う蝕)予防法を指す用語で、12歳未満の子供の歯に施術されることが多いです。人では4年以上で約60%のむし歯予防効果が認められており、むし歯発症リスクの高い歯に行うと特に有効と云われています。
因みに、犬でのむし歯(う蝕)の発生率は人と比較すると、かなり低いと云われています。
犬のむし歯発生率が人間の発生率と比べて低い理由として、歯が円錐形で歯間が広く、咬合面を有する歯よりも剪断歯による咀嚼運動が主体であるため食餌が口腔内にとどまる時間がきわめて短く、食べ物が詰まったりよどんだりする場所が少ないこと、食事に発酵性炭水化物がほとんど含まれないこと、唾液のpHが高いこと (犬の平均 pHは7.5、人は6.5)、歯の周囲に残っているデンプンを分解する唾液アミラーゼの量が犬では比較的少ないことなどが挙げられます。
今回の犬・猫におけるシーラントとは、人で言うところのむし歯予防ではなく、清掃性の向上により歯周病リスクを減らす事が主目的になります。また、次回の歯石除去を行う際に施術時間の短縮化です。
犬・猫におけるシーラントを行う場所は上顎第4前臼歯(頬側)と下顎第1後臼歯(舌側)です。
一般的には上顎第4前臼歯頬側面のみに施術されることが多いシーラントですが、当院では下顎第1後臼歯舌側面にも施術しています。
手術動画からの抜粋画像なので、少々ピントが微妙ではありますが、それで説明します。
まずは上顎の第4前臼歯に関してです。
大きい歯ではありますが、奥の方にある歯の為、歯磨きしづらく歯垢が付きやすい歯です。そして、近くに唾液腺の開口部がある為、唾液中に含まれるリンやカルシウムの影響を受け、歯垢(以降、プラーク)が石灰化します。
下の画像は左上顎第四前臼歯頬側面、右下顎第一後臼歯舌側面の歯石除去前(左側)と除去後(右側)です。
右側の写真は、大雑把に歯石を除去した後の写真で、歯石が発育溝を埋め尽くした画像と除去後の比較画像です。
上顎第四前臼歯(頬側)と下顎第一後臼歯(舌側)の発育溝は深い為、歯磨きをしていても磨き残しが発生します。
歯垢が取り除かれないまま歯面に放置されると数日で形成され始め、2週間ほどで石灰化します。
歯石は歯のエナメル質とは異なり、表面がザラザラしているためプラークが付着しやすく、付着したプラークが石灰化を繰り返して、歯石が層状に、まるでバームクーヘンのように積み重なっていきます。
プラークの付着を増加させたり、プラークの除去を困難にする環境要因の事を「プラークリテンションファクター(plaque retention factor)」と呼びます。
歯石は、プラーク中の細菌が死んで固まったものという認識でほぼ問題ありません。
ただし、それが土台となり、そこにプラークが付着することで、歯をどんどんと覆っていきます。
最終的には歯肉溝内にも歯石がつきますので、完全密封状態になります。この状態は大気中の酸素が極端に少ない、または皆無な状況になり、嫌気性菌と呼ばれる菌の生育に酸素を必要としない細菌が増える要因となります。
その中でも大気中レベルの酸素濃度下では生育することができない偏性嫌気性菌と呼ばれる細菌がいます。これが歯周病の主な原因菌です。
昔のブログを見てみると、「レッドコンプレックスがうんたら〜」とか書いてありますが、これは人での話で犬・猫ではまだ確定していません。
ただし、歯周病の発生メカニズムは同じですので、この偏性嫌気性菌が増えないようにする処置、すなわち歯石の除去や歯垢の除去が大切な訳です。
で、本題に戻りますのと、この発育溝に付着した歯垢・歯石があることで歯周病リスクが増加するので、溝が埋まることで清掃性の向上や歯石除去時に施術時間短縮の効果が見込めるのがシーラントになります。
下の写真は歯石除去ならびにポリッシング後の歯の写真で、左がシーラント処置前、右が処置後です。
発育溝がコンポジットレジンで埋まり、溝が平坦化しています。
ただし、溝を埋めて平坦化しても歯垢・歯石は付着します。つかないようにするには歯磨きが必須です。
繰り返しになりますが、この処置の目的は歯磨きによる清掃性の向上とプラークリテンションファクターの軽減です。
歯磨きしなければ将来的には歯石はついてしまいますが、狭い溝内の歯石を取る労力と比較し、なだらかな面の歯石を取る方が圧倒的に労力は少なくなります。
麻酔下にて歯科処置を行う際は、発育溝のシーラント処置をお勧めします。
上顎第四前臼歯(頬側)と併せて下顎第一後臼歯(舌側)のシーラントもお勧めしますが、溝がそれほど深くなかったり、歯石が付いていない場合もありますので、そういう場合は上顎の第四前臼歯のみ施術致します。