マイクロスコープの導入により大手を振って行えるようになった歯内治療に関してです。
歯内治療に関して説明するとすごく長く、マニアックなことになるので複数回に分けます。

歯内治療は「抜髄」,「エンド」,「根管治療」とも呼ばれています。
人では主に虫歯により歯髄内に感染を起こし、それが原因で起きる痛みや根尖部性歯周炎の治療を目的に行われる抜歯せずに歯を温存する治療方法の事です。

※根尖部性歯周炎とは、歯の内部には多数の細菌が生息している事で、それらが歯根の尖端にある神経や血管が入ってくる孔(根尖孔)から、歯根の周囲の組織(根尖歯周組織)に細菌の感染が広がり、病変が拡大していきます。その結果、歯根の尖端に炎症が起きて骨吸収が発生し膿が溜まった状態の事。

では、犬の場合は虫歯になることが殆どないのに、なぜ歯内治療が必要なのでしょうか?

人の場合は虫歯の進行によるものが多いですが、犬の場合は硬いものを噛んだ事により歯が割れてしまい(平板破折)、歯髄が歯外に露出してしまう(露髄)事が多いです。外傷性による破折もあります。外傷性は犬歯に多い。
その為、犬の歯内治療が最も多く行われる歯は、上顎犬歯から数えて4番目にある大きな歯(第4前臼歯)です。

なぜこの歯が一番破折を起こしやすいのでしょうか?

この歯は下顎の第1後臼歯と併せて裂肉歯と呼ばれ、咬合時に一番使う歯であり、多くの肉食哺乳類において肉や骨をはさみのように剪断する大切な機能を持った歯です。
裂肉歯は大きく先の尖った形状で、硬い肉の剪断や骨の粉砕に用いられる。その為、オオカミやライオンなどの野生肉食動物において、この裂肉歯が失われた場合、物を噛ん砕いたり、嚙みちぎることが出来なくなってしまう事で最悪の場合、餓死してしまうくらい重要な歯なのです。

自然動物にとっては非常に重要ですが、人と一緒に生活し、かつドッグフードのような噛み砕く必要のないフードを食べている所謂ペットにおいてはそれほど重要な事ではないのかもしれません。が、歯が割れたら神経が出てしまうため、知覚過敏や細菌感染を起こし痛みに原因になります。

ある日を境に、急に反対側で噛まなくなったとか、硬いものをかじったらキャンと鳴いたとか、心当たりはありませんか?もしかしたら、歯が割れて露髄しているかもしれませんよ。

歯はエナメル質という身体の中で最も硬い組織により覆われているため丈夫です。人ではこのエナメル質の厚さは2〜3mmあると云われていますが、犬猫では0.1~1mmと人の半分にも満たない厚さなのです。そして大きく損傷すると再生されない組織でもあります。エナメル質表層に関しては再石灰化することがある。
犬の歯は人のように臼状の歯ではなく、山型の構造をしておりますので、噛む時は人の様に面と面で力が分散できず、山の点と点に局所的に過度な力がかかってしまうことから薄いエネメル質が破損してしまいます。その為、割れる所は主咬頭と呼ばれる場所が殆どです。エナメル質は摩耗には強いが靭性が弱い。

犬の破折の原因で最も多いのは硬いおもちゃヒマラヤンチーズです。
私の経験では上顎第4前臼歯の破折の殆どがこれらのどれかが原因でした。

心当たりはある方は、今すぐ止めましょう!歯が割れる危険性があります!

その商品の存在を全否定はしませんが、良いことばかりうたい文句にしてマイナス面にはほぼ触れてない製品が多いので注意してください。飼主側はその製品に対するメリット・デメリットをしっかりと理解した上で購入し、与えましょう。

因みに、「獣医師が推奨する」という決まり文句にも細心の注意しましょう。名前や所属等を出した上で紹介している場合は、その商品に対する責任を負っているということなので問題ないと思いますが、正直なところ、どこの誰??っていうのが多いです。その商品に対して意見を聞いてみて「good」と答えただけで獣医さん推奨!とか書かれてしまう世の中です。

次回は、歯内治療の前に、歯の本体である象牙質について書きます。