一気に雪解けが進み、道路は滑り止め砂や砂埃で満ちあふれ、かつ先日からハンノキの花粉が飛来しているらしく、鼻水やくしゃみと日々格闘しております。一昨日あたりから悪化しているので、これから毎日マスク着用しての診察になりそうです。
さて、今回は、予防歯科処置の勧めについてです。
予防歯科とは「虫歯や歯周病を未然に防いで、歯や口を健康に保つ治療の事」を指します。つまり、歯周病を治すための治療ではなく、歯周病にしないための予防的治療という事です。
日頃から当院に通院されている方には身体検査時において口の中の状態を確認しており、歯石の付き具合や歯肉炎の状態、歯周病や歯槽膿漏の進行具合を常にチェックしていますので、必要であればその際に歯科処置の必要性を説明させていただいてはおります。
しかしながら、ちょっとした口臭や歯石程度では、本来であれば行きたくもない動物病院には来ないわけで…発見時にはかなり進行している事がしばしば…
狂犬病予防接種や混合ワクチン、フィラリア予防等の繁忙期が近づくと普段は病気をしない健康な犬や猫が数多く来院されますが、健康な個体は年に数回しか来院される機会がありませんので、そういう機会に身体検査をしっかりと行うわけです。
そして、見た目では評価できない口腔内も必ず(出来ない個体もいますが)チェックします。
昨年、歯周病の状態を簡易的に評価することができず検査キットが販売されました。見た目的には歯石が少し付いている程度でも、歯周ポケットでは歯周病菌が活発になっていることが多々あります。歯周病菌が増殖すると歯周病菌が出す副産物(口臭や歯肉炎の原因)もたくさん作られますので、それを検出するのがオーラストリップという検査キットです。
この検査キットを使って見た目では評価がしずらい歯周病の評価を行います。検査紙の色調変化を使って確認するのですが、ちょっと色が見づらいので、もっと鮮やかな色にしてくれれば良かったのにと検査する度に思います….
とはいうものの、実際の所、日常診療において口腔内疾患を主訴に来院される方は、それほど多くはありません。大半は別の主訴で来院されており、問診時や身体検査において口腔内疾患が発見され、必要であれば口腔内治療を行うという流れが殆どです。
若い子であれば、それほど気にしなくても良いのですが、5歳以上(当院における平均年齢)の犬になると殆どの個体で歯周病になっている感じがします(しっかりとは統計とっていません)。
軽度の歯周病であれば、予防歯科処置の範囲で行えるので麻酔や痛みなどの身体的負担や経済的負担も少ないのですが、重度になると口腔外科の範疇に入ってしまい、処置時間も3~4時間かかることもしばしばあり、その分、身体的な負担や経済的な負担も軽度のものと比べ、数倍になってしまいます。
そこで重傷化するまえに、予防歯科処置の勧めです。
一見綺麗な状態をしていても歯周病を呈しているのであれば、知らず知らずに進行している(歯の裏側などで)ことが多いので、酷くなる前に早めに介入をした方がよいと思います。
当院で行っている予防歯科処置の手順は以下の通りです。
1.処置は全て全身麻酔下にて行われます。その為、事前に術前検査を実施します。血液検査、レントゲン検査、心電図検査など
2.全身麻酔をかけますので、処置の日は絶食・絶水で来院して頂きます。来院時に身体検査を行い、一般状態の確認を行います
3.麻酔前前投薬(鎮静剤や抗生剤、消炎剤など)を施し、そして全身麻酔を行い、処置を開始します
4.麻酔をかけたら、処置前に口腔内を確認します。この時に、歯科用のレントゲンを撮影すれば、歯根部の状況把握ができるので良いのですが、予算の関係で当院にはまだありません。
2.超音波スケラー等のスケーラー器具を用いて歯石の除去を行います
3.歯周ポケット内の歯垢や歯石、強い炎症を呈した歯肉壁の掻爬などのルートプレーニングも合わせ行います。この際、歯肉炎が酷い場合は、炭酸ガスレーザーを用いて歯周病の治療を行います
4.最後にポリッシング(歯面研磨)を行い、歯の表面を滑沢化させます。これを行わないと歯石除去後の歯面はかなりざらざらと粗になっているので、そのまま放置すると直ちに歯垢・歯石が付着してしまいます。歯石を取って暫くしたら、もっと酷くなったというケースがありますが、大半は最後にポリッシングを行っていない歯科処置後に発生しています(経験上)
5.歯石の取り残し等ないか口腔内をチェックし、研磨剤や破砕した歯石の残骸を洗浄液でしっかりと洗い流します
以上、このような流れで通常の予防歯科処置は終わります。
ただ、残念な事に予防歯科処置の範囲内で口腔内ケアを積極的に行ってくれる方は、それほど多くはありません。
口臭が酷くなってきた、口が痛いのか食べ方が変、歯磨きしていたら出血した等の症状が出てから処置を行う事例が殆どですので、あまり予防歯科に関する認識は一般的には低いのだと感じます。ヒトでも同様なので、犬・猫ではなおさらなのです。
これは偏に獣医師から飼主様への啓蒙不足が原因ですので、予防歯科処置を勧めて行く関係上、耳にたこができるほどしつこく指摘していこうと思います。
もし興味がありましたら、ご来院の際にその旨伝えていただけると助かります。