歯科処置を行う際、事前の検査(視診、歯周病原因菌酵素活性測定、無麻酔下レントゲン検査etc)だけでは判断することが出来なかったことが多々発生します。
歯科処置を行う際には「予防歯科のみ」と「歯周外科を含む」に分けて準備を行う必要があるのですが、ある程度の高齢の場合は隠れ歯周病が起きていることが多く、予防歯科のみの予定が歯周外科も必要になるという事案が頻発します。
ですので、同意書の説明をする際に、予防歯科処置が前提であるが麻酔下プロービング検査をした上でどうしても残すことができない歯に関しては抜歯処置が必要になってしまうという話を併せてしています。
プロービング検査に引っかかってくる場合は必ず歯科レントゲンを撮影しています。
今回は、事前の視診検査ではわからず、プロービング検査+歯科レントゲンで隠れ歯周病が見つかった症例を紹介します。
症例はMix犬 9歳、不妊手術済み雌。歯科処置は今回が初めてです。
当院では毎回、施術前と施術後の写真を撮影し、お返しの際にその写真を見ながら説明をしています。
一見すると歯石はそれなりに付着していますが、酷い歯肉退縮(歯肉が下がる現象)はなさそうです。
写真を撮ったら次にプロービング検査を行います。当院では6点法という方法で行っております。頬側近心(鼻側)、頬側中央、頬側遠心(喉側)、舌側近心・中央・遠心を測定し異常があった所を記録します。
予防歯科の場合は施術後に異常があった場合のみ、レントゲン写真を撮ります。
本当はすべての個体で撮影した方が望ましいので、いまは全個体で実施しています。
歯石除去-ポリッシング剤研磨-濯ぎ後に撮影した写真です。
どこが隠れ歯周病かわかりますでしょうか?肉眼だけでははっきりと「そこだ」とは断定が難しいです。
上の写真は実際の歯周ポケットの深さ・範囲を黄色線で分かりやすくしてみました。
舌側は異常がなかったのですが、頬側は歯周ポケッが著しく拡張しており、歯槽骨の融解が確認されました。
先ほどの箇所を歯科用レントゲンで撮影したものです。黄色い円の中に注目。
本来、歯が埋まっている歯槽骨が融解し黒い領域が増えているのがわかるでしょうか?
幸いにも歯に動揺はなく、レントゲンで撮影した見た目以上に歯の根っこがしっかりとしていた為、拡大鏡を見ながら歯周ポケット内の歯石を丁寧にルートプーニングを行い、最終的には抜歯しない方向で処置を致しました。
歯周病治療は、発見した場合、可能な限り早期に行わないと歯石除去だけでは治療法が難しくなり、最終的に抜歯になります。
比較的軽い歯周病(浅いポケット)であれば、歯や歯の周りを清潔に保つ治療(スケーリングやレーザー治療、ブラッシング等)を行う事である程度の組織の再生が望めますが、炎症が歯肉の奥まで進行し、歯周組織の破壊がひどい場合には、再生が見込めない為、抜歯が必要となってしまいます。歯槽骨を再生させる薬はありますが非常に高額です。
特に中等度~重度歯周炎に罹患した場合、歯周病の原因である歯石は歯根の深い位置に付着しているため外から取り除くことは不可能になります。これを取り除くために歯肉を切開して歯根に付着している歯石を目視できる状態にして取り除き、炎症のため凸凹になった歯槽骨を平らにして原因の除去を行い、炎症の進行を止める必要があります。
ただ、歯肉を切って歯石を綺麗に取り除いても、切開した歯肉がしっかりとくっつかないことが多く、最終的には歯肉退縮が進行し、歯の根っこが露出することでそこに歯石がつき、炎症が進行し、結局のところ抜歯となってしまうことが多いのが実際です。
今回、見た目は酷くないのに実は歯周病が隠れて静かに進行しているという事がすごくわかる症例がいましたので、ブログで報告してみました。
動物の場合、しっかりとした歯科処置を行うには全身麻酔下になってしまう為、どうしても費用が高額になってしまいます。しかしながら、歯周外科を行う場合と予防歯科とでは価格が2倍以上違いますので、歯周病がひどくなる前に予防歯科処置を行う方が最終的には費用が安く抑えられます。かつ口臭も軽減されます。
歯科処置をした後に、皆さんに言われることが「こんなに口臭がしないものなのですね!」です。
犬の口は臭いのが当たり前ではありません。
歯石が気になるのでどうしうようかなと悩まれている方の参考になれば幸いです。