ちょっと学会やワークショップ、自宅のリフォーム、電子カルテの入れ替え作業等々、色々とやらなくてはならない事が多く、ブログを書いたままupdateせずにそのまま放置し、早1か月が過ぎてしまいました。10月上旬に書いたブログを11月にupします・・・。他にも書きかけのやつが3つほどありまして、まだ出来上がっておりません・・・。出来上がり次第、updateします。
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Er.YAGとはエルビウムヤグレーザーと呼びます。
今回、歯科治療の為に歯科医療機器で有名なモリタ社製の「Erwin® AdvErL EVO(アーウィンアドベールEVO)」を導入いたしました。
道内の動物病院でこのEr.YAGレーザーを持っているのは当院だけです。(2024年10月7日現時点)
エルビウムヤグレーザー(以降、Er.YAGレーザー)で何を治療するのか?
それにはEr.YAGレーザーとはどういうものなのかを説明しないといけないので、少し紹介いたします。
まず、レーザーといっても炭酸ガスレーザー、Nd.YAGレーザー、半導体レーザー等が医療機器として販売されています。脱毛レーザーは波長の違いにより毛の黒い色素(メラニン色素)にのみ反応する性質を持っているだけで、基本は同じです。当院にも炭酸ガスレーザーがあり、皮膚腫瘤や口腔内腫瘤の切除、軟口蓋切除等の外科治療機器として使用しております。
こういった医療機器に使われるレーザーですが、波長の違いによりさまざまな名称があります。紫外線、赤外線等
このEr.YAGレーザーの波長は2940nmであり、中遠赤外線領域になる。
イメージしやすいように下に画像を貼っておきます。
水に極めてよく反応をし、同じ表面吸収型レーザーであるCO2レーザーと比較すると、水に対する吸収係数は10倍、組織浸透型レーザーであるNd:YAGレーザーと比較すると20,000倍になります。
また、この波長はレーザー光を組織に照射をした際には炭化層、凝固層、変性層が形成されにくいため、軟組織疾患の治療だけではなく、硬組織疾患にも応用が可能となります。
硬組織の蒸散のメカニズムは、レーザー光が水や有機成分に吸収され、光エネルギーは熱エネルギーとなりphotothermal evaporationを生じ、加えて水蒸気による内圧亢進によるmicroexplosion(微小水蒸気爆発)が起こることにより硬組織の蒸散が可能となります。なのでレーザーで歯石も取れます。
Er.YAGレーザーは、人医療においては現在、歯肉の色素沈着の除去(メラニン沈着、メタルタトゥ)、歯肉の切除や整形、歯周炎の治療(歯石の除去、歯周ポケットの治療、歯周外科治療)、インプラント周囲炎の治療に効果的に用いられています。
人医療でEr.YAGレーザーを治療に使われるのは以下の通りです。それ以外にもあります。
1.硬組織疾患:う蝕(虫歯)除去、くさび状欠損の表層除去
2.歯周疾患:歯周ポケットへの照射、歯石除去、ポケット掻爬、歯肉整形、フラップ手術
3.軟組織疾患:小帯切除、歯肉切開・切除、口内炎の凝固層形成、色素沈着除去
人では、Er.YAGレーザーを使用するメリットは様々あるのですが、一番のメリットは治療中の疼痛やストレスが少なく、基本的には浸潤麻酔なしで歯周ポケット内にチップを挿入し、治療できることです。
残念ながら動物医療では、歯科治療は全身麻酔下が基本ですので、この利点は享受できません。
それでは、動物医療においての使いどころはなんでしょうか?
主に歯周病、歯肉縁下の歯石除去、歯肉腫瘤の切除、小帯切除、アフタ性口内炎、歯周外科の際の不良肉芽除去&殺菌、歯内治療時の根管洗浄に使います。
炭酸ガスレーザーでも歯周病の治療、小帯切除、口内炎治療、歯肉腫瘤切除は使えるのですが、炭化(焦げ付き)が発生してしまう事とドライな環境下ではないと効果がでません。また歯周ポケットの内の殺菌はできません。また、根管内の洗浄もできません。
まだ当院では、導入間もなくEr.YAGレーザーの治療適応となり、実際に施術した症例が少なく、まだ経過をみている最中の為、治療before、afterの報告ができておりません。症例が集まりましたら、学会またはブログ上でもご報告いたします。
そもそも動物医療においてEr.YAGレーザーを使った治療に関する論文は全くありません。PubMedで探しても検索されません。
ただ、人のレーザー歯科学会の方で動物への治療報告をされている獣医師もおられるようなので、今後が楽しみではあります。
先日、歯周病のメンテナンス治療の為にEr.YAGレーザーを使いましたが、施術スピードが速く、処置時間がかなり短縮できました。また、歯肉腫瘤も出力を変更するだけで殆ど出血させず、切断面も焦げ付かずに綺麗に切除することができ、審美性の観点からは非常に綺麗な仕上がりになりました。
再診に来ていただいた際の口腔内検査でも歯肉の赤身や腫れが肉眼的には改善され、歯肉腫瘤切除した所もほぼ分からないくらいい綺麗になっておりました。
当院では、根幹治療も行っている為、Er.YAGレーザーを使ったLAIという技術でどの程度、処置時間・麻酔時間が短縮できるのか楽しみです。
※LAIレーザー(Laser Activated Irrigation)とは、歯内療法の分野で、レーザーと洗浄液を併用して根管内部を洗浄する技術の事で、レーザーの光力学的効果を利用して、根管内部に微細な泡(キャビテーション)を発生させ、その衝撃波で根管内部を洗浄します。